The Life Style in The New Millennium

2015/08/23(日)08:40

講堂

ショートストーリー(1475)

講堂 「あのピアノ、夜中に鳴るんだって」 「ええ!!誰がひいてるの」 「分かんないよ」 「気色悪ー」 健司と徹の通う小学校には、体育館がない。 雨が降ったら、体育はなしだ。 貧乏な村の小学校だから仕方ないが・・・。 その代わりと言っては何だが、明治時代に建てられたらしい「講堂」がある。 この講堂は、中に入ると薄暗い。朝礼や学芸会くらいならできるが、飛び跳ねるとキーキー音がする。 健司の父ちゃんと母ちゃんが小学生の時も、この講堂はあったそうだ。 なんと、爺ちゃん婆ちゃん曾婆ちゃんが小学校の時 も、あったそうだ。何年前からだろう。 この講堂の事で、変な噂がたつようになった。 夜中に、講堂の隅に置いてあるピアノが、ひとりでに鳴っているというのだ。 ついでに歌声なんかも聞こえるという噂もあった。 夏休みのある日、盆踊りで散々遊んだ健司と徹は、肝試しをやった。 講堂に行くのだ。 盆踊りは10時に終わるから、それからだと、さすがに薄気味悪かった。 「おい、聞こえないか?」 健司が言うと、徹も 「聞こえる・・・」 と言って震えた。 「ちょっと、中を見てみよう」 と健司が言うと、 「おまえ、見ろよ」 と徹が言った。 「よーし」 と、健司が窓からピアノのあたりを見ると、誰もいない。 でも、かすかにピアノの音が聞こえるのだ。 歌声も聞こえるのだ。 「誰もいないぞ」 と健司が言うと、 「やっぱり、幽霊や」 と徹が走り出した。 決して、足の速くない徹が、世界新記録でも出しそうなくらいの猛スピードで駆けた。 さすがに健司も怖くなって 「おーい、待ってくれよ」 と追いかけた。 翌朝、健司は、講堂のピアノのことを、曾婆ちゃんに話してみた。 すると、曾婆ちゃんは、目を閉じて話した。 「昔、戦争中やけどな。この村に外人のピアニストが疎開してきてな。そのピアニス ト、昼間は、いろいろ虐められるから、夜にピアノを弾いてたんや。その声と音が 今でも、こだましてるのと違うか」 「へえ、その人、死んだの」 「いやいや、ドイツに帰ったよ。戦争が終わった時にな。有名なピアニストらしいよ。 それにしても、あのピアニストの弾く曲には、魂がこもってたからなあ」 ・・・ この秋、この小学校の講堂120年の歴史が幕を閉じる。 春には、待望の体育館ができるのだ。

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