The Life Style in The New Millennium

2015/08/23(日)08:15

夜行バス

ショートストーリー(1475)

夜行バス 「夜行バスを待つ人って、何となく、ニュースで見る海外の難民って雰囲気よ ね」 23才になって初めて夜行バスに乗ることになった美雪はそう思った。 とにかく、夜も遅いせいか、みんな眠いのか、無表情なのだ。 「新幹線で行こうと思ったけど、ちょっと足りなくてね」 夜行バスで行くと半額なのだ。目的地は高知。 彼氏が、この4月から高知の高校に新設された野球部監督兼任の社会科の教師になったのだ。 いつもは、彼氏が美雪の住む名古屋まで来るけれど、もうすぐ秋の県大会とやらで、 「今月は行けそうもない」 と言ってきたものだから、居ても立ってもいられなくなった美雪は、彼氏に会 いに行くことにした。 夜の11時に名古屋駅を出発、高知には朝の8時30分に着く。 変な話だけど、夜行バスで一番心配だったのは、トイレ。 途中で行くたくなったら、どうしよう・・・水分控えめでバスに乗り込んだ。 案の定、バスは満員だった。 たった一つの小さなトイレに、「すみませんすみません」っ て言いながら、狭いバスの中、移動するのは大変だ。 それに、立ち上がったら行くところは、トイレしかないのだから、若い乙女にとっては少し気が引ける。 それでも、美雪と同年代や学生風の女の子も結構乗り込んでいた。 こんな夜中に走るバスに、こんなにたくさんの人が乗るなんて。 みんな一人一人物語がありそうだ、夜行バスには、そんな雰囲気がある。 走り出した。 最初は市街地を走るからガタガタ揺れたりカーブを切ったりで、ちょっと眠れ る雰囲気ではないが、30分も走ると、高速道路に乗るから、結構楽チン。 12時を過ぎた頃には、自然に眠ってしまった。 夜中、時々、目を覚ましたのは、背伸びをした時に隣や前の座席に足がぶつかったから、みんなシートを150度くらいの角度に倒して寝ていた。 坂出市に5時30分。高松に6時30分。 そして、8時になると、お日様の光りが窓から差し込んできて眩しくなってきた。 いよいよ、高知だ。 そう思った時、携帯電話が鳴った。 周りの人が注目したから小声で話す 「もしもし・・・」 ・・・もしもし・・ 彼だ!! ・・・どこにいる?・・・ 「もうすぐ、高知駅・・」 ・・・もう、俺、学校に行く時間だぞ・・・ 「うそよ・・」 思わず声が大きくなった美雪だが、声を押し殺し, 「どうするの、私」 ・・・しかたない、俺のアパートで待ってろ・・・ 「はーい」 感動の1ヶ月ぶりの再会は、しばしお預けとなった。 バスのアナウンスが、 「まもなく、このバスは高知駅に到着いたします・・・」 と告げた時、ふと窓の外を見た美雪は、歩道を早足で歩く彼氏の横顔を見つけ た。 ああっと思わず窓を叩いても、彼氏は気づかない。 横顔は、しだいに小さな後ろ姿に変わる。 「しかたないのよね。いってらっしゃい」 と、美雪は小声で囁いた。

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