春嵐


 「春 嵐」(はるあらし)

・嫁ぎくるときに給ひし紋服の袖通し初むる日春嵐吹く

・今一度 立ちて行かまし 鎌倉の森は緑に萌えたつものを

・今は昔 父の詠み給ひし歌幾首 書きて迎ふる葬り日の朝

・さくら さくら さくら舞ひ散る葬列に 人に車に父が棺に

・さくら散る お洒落な君が図りしか 天(そら)に激しき告別の舞

・父の病いよよ篤しと姉の声 杜の廟宇に風渡るがに

・死に近き父を訪ねむ訪ねむと夜の静寂を車駆り行く

・枕辺に残され置きし『神曲』ぞ 御手に携へ出発ちませ父よ

・枕経の代りとなるか『神曲』を我も読みけむ父に代りて

・父が死を憂しと思へど いとせめて亡き兄達に逢ふと思へば

・亡き父に涙給ひて御仏との永久の縁をうれしと 僧は

・ちさき字の詰まりてありし日記帳 鮮やかなりし父が心の
                 



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