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Jun 11, 2007
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カテゴリ:家族。
まだ10代で。

学生さんで、親のスネ齧っても堂々としてて良かった頃…。

街中でおかーさんと一緒にキャッキャ、買い物をしている若い娘っ子が羨ましくて羨ましくてたまらなかった。

ギリギリ歯軋りしちゃうくらい、羨ましくて仕方なかった。



どうもこんばんわ、スナイダーズです。たまには正式名称で書いてみましたってか、別にコレがホントの名前ではないのですけどね、でも何かコレがホントの名前でもどっちでも良い感じもしますけどね。



「私も初めて、マンボウの顔を真正面から見たのよ」

淡々と母は話す。

「歯がないのね、マンボウは。だから餌をね、しゅーって吸い込むのよ。しゅーって」

黙々と私はパスタを食べる。

「あ、マンボウはね、鳴くのよ、きゅーきゅーって。あ、きゅきゅーだったかしら…ま、でもそんな感じで鳴くのよ」

お互い…。
キャッキャ盛り上がるどころか、にこりともせず、ほぼ無表情で淡々と食事をしているので、まさかこんな内容の話をしているなんて店員さんも、お隣のカップルも思いもしなかっただろう。


「それで。どうすんの?」

突如、本題に入るのは、母の癖だ。どんな内容も話題も、全くオブラートに包んでくれない。

覚悟はしてたけど…。私は一瞬怯んだ。

無表情だった顔が、一瞬ピクリ動く。


それでも。

覚悟をしてたんだ。何度もイメージトレーニングもしてきたんだ。

ここでちゃんと言わなかったら後悔する。

掠れた声で…時には裏返りつつも…、

つっかえひっかえ、しどろもどろになりつつも…、

それでも言いたいことは全て言った。用意していたセリフは全て何とか吐き出した。


「…買い物、行こうか」

母はそう言うと、さっさと席を立ち上がった。

自分から聞いておきながら、そして喋らせておきながら…

こーゆーところも母の癖だ。



まだピチピチの10代の頃。

母親と楽しそうに買い物をしている女の子が心底、羨ましかった。


私の母は。

子供が嫌いだ。

冗談抜きで、真顔で言います。

母は子供が嫌いです。



母親とスーパーで食料品を買った以外に、一緒に買い物をしたことがないです。


その母が。

「買い物に行こう」と。


「ねぇ。これなんて良いんじゃない?」

涼しげな麻のチュニックを母は持ってきた。

意外に母は、メルヘンな、女の子らしい服が好きだ。

ちらり、私は見ると、

「何か、無防備だよ」

そう言いながら私はタートルネックやら、シャツやらを見ている。

「誰に似たのかしらねえ~」

母はぷぅっと膨れながら私の隣に立って、一緒にシャツを見る。

何だか凄くヘンな気がした。


あんなに羨ましかった、憧れていたことを今、現実にやってんのに、何だかヘンな気持ちだ。

「これなんて良いんじゃない?」

母はハンガーにかかった1枚を引き抜くと、私の前に合わせた。

「何かちょっと…普通の服っぽくないところが、アンタらしいんじゃないの?」

写真の服です。



自分で薦めてるくせに、それでも母は、何かしら悪態をつく。

「全く、誰に似たのかしらねえ~」

「…これにします」


レジに持っていき、財布を取り出したところで、母がぬっと手を出した。

「買ってあげる」



「最近ね、お姉ちゃんね、高いヒールの靴ばかり買ってるのね。高いって言っても、そこらへんのじゃなくて、ホント、爪先立ちするくらい、高いヒールなのよ」

私の隣を歩きながら母は話す。

「それでね、この前の朝、バタバタ慌ててね、そして転んじゃったのよ、すてーんって。そして膝と肘、すりむいてんの」

小学生じゃあるまいし…。私は呆れて笑いもでない。

「ま、足を捻ったとかくじいたとかじゃなくて良かったんじゃないの?」

「アンタも少しは、ヒールのある、女性らしい格好しなさいよ?」

私の姿をジロジロ見ながら母は言った。

5ミリくらいしかないピンヒールの黒い靴を履いていた。これでも「休日」の私の格好としては、随分、ちゃんとしている方だ。

「…はい」



「それじゃあね、お米ばっかり食べてないで、ちゃんとおかずも食べるのよ?」

母は特急列車に乗り込みながら言った。

私はジャケットのポケットに両手を突っ込んだ姿勢で母を見ていた。


「今日は、ありがとう。とても楽しかったわ。お姉ちゃんとは良く、買い物に行くけど、アンタと行った記憶はないもの。良い思い出になったわ」

私は青い服の入った紙袋を少し持ち上げてみせる。

「ありがとう」

ふっと母は笑った。

「どういたしまして。アンタは、青い服が良く似合うわ。良いの見つかって良かった」

不意に駅の馬鹿でかいアナウンスがした。

『2番乗り場から特急○○、発車します』


「あんたの気持ちは良く分かるわ。あんたは母さん似だからね。あんたの好きにしなさい。それ、餞別」

ドアが閉まる。

目を丸くしている私に、母は小さく手を振り、さっさと奥へ消えた。


呆然と立っている私の傍を、特急列車は静かに走り出す。



ちゃんと。

ちゃんと思い切って言って良かった。本当に良かった。



母親に会うのが、面接受けるのと同じくらい、緊張する娘は、この地球上に何人、存在するのだろう。

私だけかも知れないな…。



「あげる」

幼い頃、まだまだ母の腰くらいしか背丈が無かった、幼い頃、母親から金木犀の小さな枝を1本、貰った。

それが、

母からの初めてのプレゼントで、そしてそれ以後、コレを貰った!ってな記憶がない。

父とは何度も…つい、最近まで一緒に服やら靴やら買いに行ってたのに(絶対アヤシイ関係に見られてたよ…)、

姉とも今でも、一緒にカフェに行ったりする。


母との記憶は、近所のスーパーくらいだ。



だから凄く。

母親と楽しそうにショッピングをしている若い女の子達が羨ましかった。



その願いはこんなにも呆気なく叶ったのだけど…。

それ以上に、

「あんたは母さん似だから」

「あんたの気持ちは良く分かる」


そのセリフが何度も何度も、今でも、耳に残ってます。



お母さん、ありがとう。

※もうすぐ父の日だけどね(苦笑)ってか、父の日、終わっちゃった!?あ、あれ?




明日も皆様にとって、素敵な1日になりますように★








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Last updated  Jun 12, 2007 12:54:51 AM
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