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逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

一年で一番長い日 69、70

あなたの顔を見た時はびっくりしたわ、と芙蓉は言った。

「夏至の前の夜、あたしは父と葵の話し合う様子を離れた場所から見ていたの。険悪になってきたから、困ったわどうしよう、と思ってたらあなたが現れたのよ」

芙蓉は俺の顔を見つめる。何かを思い出すような遠い目を、一瞬した。

「あたしの居た場所からは、何を言ってるのかまでは分からなかったんだけど、今にも切れそうなくらい緊張していた二人の雰囲気が、いきなり緩んだような解けたような感じになったのがはっきり分かったの」

芙蓉は言う。

「父も葵も、あなたを見て気が抜けたような顔をしていたわ」

「だって彼、癒し系だし」

葵はうんうん頷いている。だから、癒し系ってゆーなって!

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癒し系っていうのはな、ののかみたいな可愛い子供のことを言うんだ。ののかに、「パパ、大好き!」って言われたら、それだけでどんなに心が癒されるか。うう、ののか。今月は会えないんだったな。次回面会日は来月だ・・・

すぐおねむになってしまったけど、夏樹くんも可愛い。癒し系だ。積み木で遊んでる姿を想像すると微笑ましい。父親と叔父がアレだが、性格は似ないでほしいな。

葵の言葉に、芙蓉も頷いた。

「そうねえ。父みたいに貼りついたような作り笑顔じゃなくて、本当に素直で自然な感じで笑ってたもの。あんな腹黒い笑顔を見続けた後だったから、よけいに癒されたわ」

・・・俺はたれぱんだか、リラックマか。こんなオジサンつかまえて、よくそんなに褒められるな。

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不機嫌に黙り込んだ俺を見て、葵は苦笑した。

「そんなに怒らないでよ。ホント、あの時、助かったんだからさ」
「・・・別に、怒ってない」
っていうことにさせておいてくれよ。俺も大人気ないってわかってるんだから。

ふう、と溜息をついて葵は続けた。

「父と口論になってしまった時さ、もう、ダメだ。そんな言葉がぐるぐるしてて、俺、本当に辛かったんだ。父の俺たちに対する気持ちを、どう考えていいのか分からなくて・・・」

葵は空になったカップを手の中で玩ぶ。

「もう、ダメだ、ダメだ、俺も、芙蓉も、この人にとっては意味がないんだ、そんなふうにしか考えられなくて、気持ちがぐちゃぐちゃになってた。そこにあなたが突然現れて言ったんだよ。『どうしてケンカしてるの』って」

わ、何て捻りの無い。俺が内心自分の言動に呆れていると、葵は言った。

「にこにこしてさ、でもちょっと心配そうに首傾げてさ。見たまんまのことを訊ねたの、まるで子供みたいに。もういいオトナなのに、本当に子供みたいな純真さで、不思議そうに訊ねたんだよ、あなた」

俺は赤面した。子供みたいな純真さって何だよ。
・・・そういえば、酔っ払うと子供返りするって元同僚や智晴にも言われたような。元妻も同じことを。



◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇



そういえば大学生の頃はよくみんながタダ酒を飲ませてくれたが、そういうこと、だったんだろうか。

俺が、癒し系?

例えば、怒りっぽい先輩のいる空手部のコンパとか。
例えば、物凄く仲悪い二人がいるけど、二人とも外せない飲み会とか。
例えば、失恋に荒れ狂う男を慰める会とか。俺は全然知らない奴だったんだが。
例えば、ぎくしゃくして雰囲気悪い学部のコンパとか。俺、別の学部だったんだけど。

どれもこれも、誘われたり頼まれたりして参加してた。・・・空手部の奴は、泣き落としで来たな。バイトが入ってたから最初は断ったんだけど、何か必死だったから。

店の予約人数でも間違えて先輩に怒られたのか~? とか思ってたんだが。・・・考えてみたら、予約といっても一人くらいの増減はあまり影響しないよな。大所帯な部だったし。

基本的に賑やかなのは好きだし、タダで飲み食いできて俺もありがたかったんだけど、・・・そういう理由だったのか?

空手部の先輩は、酒が回る頃にはこわもての顔のへの字の唇がゆるんでた。

仲の悪い二人と俺はなぜか三人で部屋の隅で固まって飲んで、つまらないことで爆笑してた。最後は揃って笑い上戸になってたな。

失恋男を慰める会では、面識もないそいつのために『失恋レストラン』を熱唱したっけ。

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雰囲気悪い学部コンパは、最後はみんなで肩を組んで大学の古い逍遥歌っていうのを歌ってた。なんでみんなあんな古い歌を知ってたんだろう。あ、そうだ。老教授が歌いだしたんだ。メロディも歌詞も簡単だったから、みんなすぐ覚えたんだった。

そういやあの時、老教授から「君はこの学部のマスコットだ!」とにこにこしながら頭を撫でられて・・・酔っ払ってむやみに楽しかったから、俺も老教授の頭を撫でた、ような気がする・・・思い出すと、怖い。いや、だから俺は違う学部だったんだけど。

俺に破格の条件で事務所を貸してくれてる友人は、俺のことを<コンパの座敷童子>と呼んでいた。あちこちでしょっちゅうタダ酒飲んでたからそのせいかと思って聞き流してたんだけど、揶揄ではなくて本気でそう思ってたのか・・・?

げ。人を幸運のお守りみたいに。

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元妻には、子供の笑顔みたい、って言われた。酔っ払った時の、俺の顔。
そう言って笑った彼女が俺にキスをしたのが、俺たちの始まりだったっけ。終わってしまったが。

あれって実は、「このぉ、愛い奴め!」とばかりに、俺が猫の耳に息を吹きかけてくすぐったがるのをにこにこニヤニヤしながら見てるのと同じ感覚だったのかも・・・

俺、猫? 智晴はなんだかやたらに俺に飲ませたがるし。

顔は瓜二つ、美男と美女に見える双子の兄弟が、二人して目の前でにこにこ俺を見てる。彼らにとって、俺は夏樹くんと同じレベルなのかもしれない。さっき俺、やたらうれしそうにブルーベリーのマフィンを頬張ってたし。

はあ。・・・あんまりうれしくない。俺自身はそういうこと考えたこともなかったし。でも、大学時代一緒に飲んでた人間は楽しかったみたいだし、こいつらも喜んでいるみたいだし。

ま、いっか。

俺の表情がゆるんだのを見てか、葵が言葉を続けた。

「あなたに、『どうしてケンカしてるの』って聞かれた時、俺はなんだかふっと気持ちが軽くなったんだ。どうしてかわからないけど。あなたが、あんまり不思議そうな顔をしてたからかもしれないね」

あんなつまんないことでぐるぐるしてる自分が、馬鹿らしくなったんだ。葵はそう言った。






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