人生その144:【とっておきの本】谷川俊太郎+田中渉『あなたはそこに』
きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり 高柳重信 今月号の日経WOMANの特集が「心を揺さぶる最高の本200冊」で、興味があったので久々に買いました。誰がどんな本を選ぶかが面白いですよね。自分が読んだことのある本が載っていると、嬉しかったりして。西瓜丸も本が大好きです。でも、何度も読む本というと、やはり限られてくる気がします。この特集の中で緒川たまきさんが、ベッドサイドに置いてある「何度も読み返したい本」の中から10冊紹介されてました。眠る前に読みたい、何度でも読みかえししたい「とっておき本」、私だったら、なんだろう?と考えてみたとき、まあ何冊かは、浮かぶわけです。浮かんだら、語りたいわけです(だって大好きなんだから)。というわけで、語ります。記念すべき1冊目として、今日は、『あなたはそこに』を。谷川俊太郎さんの詩に、『天国の本屋』の田中渉さんが絵をつけたものですが、これ以上ないほどのベストマッチです。大好きです。すばらしい。 「あなたはそこに」 谷川俊太郎あなたはそこにいた 退屈そうに右手に煙草 左手に白ワインのグラス部屋には三百人もの人がいたというのに地球には五十億もの人がいるというのにそこにあなたがいた ただひとりその日その瞬間 私の目の前にあなたの名前を知り あなたの仕事を知りやがてふろふき大根が好きなことを知り二次方程式が解けないことを知り私はあなたに恋し あなたはそれを笑い飛ばしいっしょにカラオケを歌いにいきそうして私たちは友達になったあなたは私に愚痴をこぼしてくれた私の自慢話を聞いてくれた 日々は過ぎあなたは私の娘の誕生日にオルゴールを送ってくれ私はあなたの夫のキープしたウィスキーを飲み私の妻はいつもあなたにやきもちをやき私たちは友達だったほんとうに出会った者に別れはこないあなたはまだそこにいる目をみはり私をみつめ 繰り返し私に語りかけるあなたとの思い出が私を生かす早すぎたあなたの死すら私を生かす初めてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も 帯のコピーは「世界一短い恋愛小説」。しかも完成された恋愛小説なのですから、ただただ脱帽です。田中渉さんの絵と合わせて読むと、すばらしさが倍増なのです。この本に出会ったのは奈良で働いている頃で、仕事が大変な時期でした。この詩と絵の織りなす世界に、心を奪われました。これぞまさしく、大人の絵本です。最後の節のどんでん返しが、切ない。