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2019.10.14
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カテゴリ:ショートエッセイ
 私はときたま自分の左ひじのつけ根を見ることがある。そこには3センチほどの傷跡があり、糸で3か所ザックザックと縫われた跡がある。今、見るとなんと雑で乱暴な縫い方なんだろうと思う。当時は医療技術が遅れていたのかと思うほどだ。それとも大人になるにしたがって傷跡も拡張し、広がったために雑に見えるのだろうか。そんなことをひとしきり考えた後、あざやかに脳裏によみがえってくるのはあのときの出来事だ。


 それはまだ私が10歳ぐらいのころの出来事だった。その頃、日本はまだ裕福でない時代であり、私たち家族はS市の市街地から少し離れたところにある小さな一軒屋に住んでいた。家の前には石垣が連なっており、その手前は幅2メートルほどの道になっている。石垣の右端の方に崩れている箇所があり、日陰になったそこから路地が連なっている場所があった。いや路地というよりは、むしろ水のない溝がつづいているといった方が正しかったかもしれない。私はよく石垣をよじのぼってこの部分から入り込み、迷路のような路地をいろいろと探検したものだった。


 それはワクワクする未知の冒険であった。途中に生えている樹に飛びついて、降り立ってみると、そこは知らない家の塀や玄関であったりした。中には節穴のようなくりぬかれた板塀があって、そこから覗いてみると、古ぼけた納屋の一部が見えたりした。耳を澄ますと、「ウィーン、ウィーン」とかすかに機械音が響いている。今にして思えば、町工場か何かの工房だったのだろうが、私にとっては異次元の別世界をのぞき見しているような気分だった。



 ある日、いつものように塀をよじ登った私は小脇に小さな箱をかかえていた。小箱には漫画のシール、おまけでもらったバッジ、ビー玉、おはじきなどがつめ込まれている。しかし当時の私にとってはこれらはかけがえのない品々であり、この小箱は大切な宝箱であった。私はこの宝箱を適当なところに隠して埋めようと考えていたのである。きっと海賊が宝箱を隠す心境だったにちがいない。いつもと違った木によじ登り、そこから見下ろすと塀越しに小さな庭があるのが見えた。私にとってはまだ足を踏み入れたことのない一角である。私はそこに宝箱を隠そうと考えた。


 塀のてっぺんに足をかけ、ゆっくり降り立つと私は庭をぐるりと見渡した。とりたてて何も植えられていない殺風景な庭だったように思う。庭の片隅がいいだろうと思ってしゃがんで穴を掘ろうとしたときだ。向こうの納屋のような建物の陰から何か茶色ぽい大きなものがサッと近づいてきた。後になって分かったことは、それは番犬用に飼われていた秋田犬だった。庭に放し飼いにされていたのである。秋田犬はあっという間に私の目前にまで迫ってきた。私はとっさに左手で自分の顔を覆った。ひじになにか軽い感触を感じたが、次の瞬間には秋田犬はどこにいったのか姿を消してしまった。それはほんの1,2秒の間に起こった一瞬の出来事であった。





 何が何だかわからぬまま、恐怖にかられた私は宝箱を置いたまま無我夢中で塀をよじ登り、裏の溝に降り立ったような気がする。心臓がバクバクと脈打ち、口の中がカラカラだった。家に戻ったとき、畳に血が点々とついているのが分かった。ひじが濡れているような感触を覚えて触るとぬるっとして赤いものが指についてきた。それは血であった。血が大量に流れているのである。そのうち、母親が帰ってきた。一生懸命に赤チンを塗っている私に、理由を問いただし、二言三言、激しい言葉でしかりつけていたようだ。それから母親は、大声で泣きわめく私を自転車に乗せて病院に連れていったことをおぼろげに記憶している。



 今にして思えば、秋田犬は侵入した賊が子供だったので、かなり手加減して軽い一撃で引き上げたのであろう。今でも、目前に迫った秋田犬にとっさに手を挙げた瞬間の一コマ、家でわあわあと泣きわめく自分の姿、病院の待合室などがかすかに記憶されている。結局、あの宝箱はその後どうなったのか記憶にはない。



<ショート・エッセイ>

偶然
​​予知​
宝箱













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最終更新日  2022.11.23 00:53:42
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