山崎元のホンネの投資教室

2006/12/15(金)18:52

第四十五回 ポートフォリオ運用の一般的な原則(6)-2

「ホンネの投資教室」(116)

■ポートフォリオのメンテナンス  次の問題を考えてみて欲しい。  正解は、本来、リターンに関する情報と売買コストが正しく評価されていれば、情報の変化を反映する頻度が高いほど多くの有効な情報を取り込むことができるはずなので、間隔が空いて且つ硬直的な「3ヶ月リバランス」という行動ルールは最適ではないはずだ、ということだ。  ポートフォリオのリバランスの間隔に関する基本的な原則は、期待リターン、推定リスク、売買コストのそれぞれについて正しい数値を得ることができれば、リバランスの間隔を詰めるほど、新しい情報がポートフォリオに取り入れられて、ポートフォリオは改善するということだ。過去のポートフォリオのバック・テストでも、リバランシングの間隔を詰めた方がよい結果が出る場合が多い。  もちろん、コスト倒れにならないように、売買コストは十分保守的に見積もる必要があるが、理屈の上では、新しい情報を反映させるためにも、ポートフォリオのリスクのバランスを修正するためにも、ポートフォリオは絶えずメンテナンスするべきだ、ということになる。  ただし、実際に、日々時々刻々売買を行うべきだということではない。現実には、何らかの情報を時々刻々得るものの、売買コストをかけてもペイすると判断できるほどの、期待リターンないしリスクの推定値の変化をもたらす情報はなかなかない、ということだろう。  なお、運用期間が短期間か長期間か、ということは、売買回転率には、あまり関係ない。運用期間が短期であっても、頻繁な売買が非合理的になりやすい事情は同じである。運用を年度単位といった、短期間で考える場合に、頻繁に売買することが必要であるかのように思う人が、時にはプロの中にもいるが、これは正しくない。リターンの改善が十分期待できないのに、売買を重ねても仕方がない。他方、長期運用であっても、リターン改善のチャンスがあれば、ポートフォリオを動かすことを躊躇する理由はない。  日々のポートフォリオのチェックに関しては、ファンドマネジャーにより、運用スタイルにより色々な方法があるだろうが、日次単位でのポートフォリオの時価総額の変化を、幾つかの指数や比較対照のためのポートフォリオと比較してみて、運用しているポートフォリオのパフォーマンスの動きが納得できるものであればよし、という程度のチェックは、プロとしては最低限必要だろう。また、個人投資家の場合も、ポートフォリオの時価の変動の程度を把握するためにも、同様のチェック(たとえばポートフォリオとベンチマークの日次のリターンを比較する)ことが望ましい。  目標とするベンチマークや代表的な指数の他にも、例えば、同じ銘柄でウェイトが異なる(等金額、時価総額等)ポートフォリオや、代表的なアクティブ戦略を具体化した架空ポートフォリオを用意しておいて、それぞれのポートフォリオの価値の変動を観察すると、ポートフォリオの変調を把握する上でも、市場の状況を把握する上でも手間がかからず便利なことがある。  個々の銘柄に関連するニュースの全てや、まして日中の値動きまでをフォローする事はプロにとっても、手間の点で現実的ではないし、「完全なフォロー」というものは、口では言えても現実にはまず不可能なので、通常は最初から予定外の変動の影響を受けにくいポートフォリオを設計して(典型的には分散投資を徹底して)、ポートフォリオ全体の状態を把握しコントロールする事に注意を向けるべきだ。  また、現実の仕事のスタイルとして、日々の値動きや市場の噂などをリアルタイムで追いかけると、注意の方向が市場の後追いになりやすいという問題と、自分で生産する情報上の付加価値が少なくなりがちになるという問題を抱えることになりやすい。自分の情報・判断と他の市場参加者の情報・判断の「ギャップ」がアクティブ・リターンの源泉なのだが、ともすれば自分独自の情報収集と判断を行うことがおろそかになりがちなので、注意が必要だ。

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