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私事で恐縮だが、本連載の第七十回目「ETFを使った個人の資産運用~簡便法~」をベースにして、個人の資産運用について具体的な方法をまとめた本を書いた。「超簡単お金の運用術」(朝日新書)というタイトルで、12月12日に発売の予定だ。
具体的な種明かしをすることが本のセールスにプラスなのかマイナスなのかは微妙だが、具体的な方法として何を説明したかというと、生活に必要な資金を除く、運用に回せる余裕資金を全て内外の二つのETFに投資(比率は国内株4対外国株6)してしまう「基本型」と、リスク資産部分を二つのETFに投資することを基本としつつも、リスクを回避したい投資家のために安全資産部分を個人向け国債(10年満期・金利変動型)あるいはMRF(マネー・リザーブ・ファンド)に投資する「リスク調整可能型」の2タイプを紹介した。 一般的な読者の嗜好を考えると「リスク調整可能型」の方が受け入れやすそうに思える。しかし、敢えて余裕資金以外を全部株式に投資する方法を「基本型」として先に紹介したのは、リスクを取った状態で本当に困ることがあるかどうか、一度自分にあてはめて考えてもらうと、「リスク」についてよりよく分かるのではないかと考えたからだ。 当面の生活資金以外のお金を内外2つのETFに投資してしまっても、それで本当に「困る」という人は案外少ないのではないだろうか。 予想される将来の稼ぎを現在価値に割り引いて合計した「人的資本」という概念があるが、たとえば、若くて元気に働いている人の場合、人的資本の価値が大きいので、金融資産の運用では大きなリスクを取っても案外平気なはずだ。若くて健康な人の人的資本の価値は債券のように比較的安定していると考えられる。たとえば、500万円の金融資産のうち150万円を普通預金に置いて、残りの350万円を全て株式に投資してしまった場合、金融資産だけを見ると「70%も株式に投資している」と見えて、これは企業年金の運用の資産配分計画と比較しても、かなりハイリスクな資産配分に見えるが、仮に人的資本が1億円あると考えると、債券のような資産が1億円あって、株式投資は350万円にすぎないから、全体の中で、株式への配分は4%にも満たない。 それでは、人的資本の価値が縮小する高齢者の場合はどうかという問題があるが、個人差は非常に大きいとしても、高齢者の場合、今後に必要な生活費その他の将来の支出がある程度見えているというメリットがある。あくまでも余裕のある人の場合ということではあるが、分散投資された株式での運用は急にゼロになるようなことがないから、大きな金融資産を持っている高齢者はすでに経済的には「逃げ切っている」公算が大きい。 人的資本と共に将来の支出の必要性も考慮することが大事だ。後者は適当なネーミングがないが、一種の負債のようなものなので、上記の拙著では「ライアビリティ」という単語をあてることにした。 一般論をいうと、資産配分計画を含む運用方針を決めるにあたっては、人的資本とライアビリティの両方を考慮する必要がある。 ただ、人的資本もライアビリティもある程度、伸縮可能だ。たくさん働けば人的資本は増額が可能だし、節約生活を送る用意があればライアビリティは縮む。こうした柔軟性も考えると、株式投資のリスクはかなりの程度吸収できそうな感じがする。 考えてみると、われわれは、ローンを組んで年収の何倍もするような家を買ったり、失敗すると経済的にも多大な損失を伴う結婚のリスクを引き受けたりするのだから、換金による撤退も容易なETFあるいは個別の上場株に対する投資のリスクをそれほど恐れる必要はないのではなかろうか。 もちろん、リスクを取っても「困らない」からといって、取れる限り最大限のリスクを取る必要があるというのではない。拙著にも書いたのだが、あくまでも自分のペースで、リスク資産には、「困らない範囲で、好きなだけ」投資するべきだというのが運用の基本だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年12月08日 10時16分33秒
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