一夢庵別館

2010/05/07(金)00:19

頭脳明晰薬

健康(80)

一夢庵 怪しい話 第3シリーズ 第792話 「頭脳明晰薬」  戦後の受験戦争と呼ばれていた頃の日本の教育を丸暗記偏重と批評する人達がいるのですが、私的には”それほどの量の丸暗記をしているのか?”という素朴な疑問を当時から持っていました。  まあ、それくらい戦前というか江戸時代風の四書五経丸暗記教育を受けていた人達の暗記は体系的であり正確かつ暗記している絶対量も多かったということですが、そうした基礎的な知識量の上に応用変化が求められていたと言えます。  実際、100年以上昔の明治の中頃から後半くらいの大学入試問題を平成の大学受験生達が解けるか?といえば、まず無理だと思います。  本を最初から最後まで丸暗記するというのは、一つの体系に基づいた知識を身に付けるには良い方法で、歴史が古い(生き残ってきた)民族には必ず丸暗記の対象になっている書籍(聖書、タルムード、コーラン、etc)が存在しています。  では、戦後の丸暗記のどこに問題があったか?というと、暗記する内容が体系的でなかったということで、戦前が線や面で暗記していたとすれば、戦後は点で暗記するようになったのが一番大きな違いではないかと思われます。  興味深いのは、日本が戦争に負けた理由として、物量と(科学)技術力の差とでもいった話になった事と、1950年代から世界規模で本格化した宇宙開発時代の到来といった学校の外の出来事が、否が応でも最先端科学の重要性を周知させたことでしょうか?  そして、不思議なことに、世界が宇宙開発に象徴される最先端技術にシフトしていったときに、日本の最高学府である大学の大半は、大学紛争時代へと突入していき、10年近い間、使い物にならないか学習不足の人材を大量に生産することになります。  もっともそれは、他の西側先進国における学生運動でも共通していた事ですが、普通に4年間の大学のカリキュラムをこなして学習していれば十分に知識と技術を習得できて社会に貢献できたであろう人材が、かなりの割合でドロップアウトしていったり、国全体の研究効率が著しく低下した事は否めません。  十数年前から、日本人の”理数系離れ”が深刻な国際競争力の低下に直結して問題になっているのですが、それでいて、”円周率は3でいい”という愚民化教育を文部科学省が真顔でやったわけで、私にまで”ゆとり~君”と馬鹿にされる人材を量産することには成功したわけです。  ただし、ゆとり~君世代の特徴は、丸暗記世代より全面的にお馬鹿になっている人材と、丸暗記+技術の進歩や経済力の向上で遙かに賢くなった人材に二極化していることで、私にまで馬鹿にされているのは当然、前者のお馬鹿さん達ですが、それでいて裏付けのない自信というか根拠の無いプライドのようなものは私たちの世代より余計に持ち合わせているようです(笑)。  技術立国日本と自慢し、複数の20才前後のプロゴルファーや野球選手、競艇選手や競馬の騎手などでさえ年に数千万~数億円程度の収入を手にするのは当たり前とされている国で、社会を根底から変えるような最先端の発明や発見をした技術者が彼らや彼女たちと同等かそれ以上の収入を要求すると”身の程知らず”であるかのようなバッシングが撒き起こる社会というのはかなり異様ではないかと。  海外の先端企業なら、人材流出を防ぐ意味も込めて、裁判になる前に億単位の報酬を出していたであろう青色ダイオードの発明に関しても、結果的に日本では国家まで”無かったこと”にしたわけで、あの一連の騒動で、日本に見切りを付けた優秀な理系の学生は少なくなかったのではないかと心配しています。  ただ、本心はどうであれ、ゆとり~君達の就職に関する意識調査で、安定した就職先とか終身雇用とか年功序列といった事を口にする人が増加していて、”報酬というのは自分に対する客観的な評価の指標である”と割り切って考えられなくなっているとすれば、哀れでさえあります。  いくら雇われる側が、古き良き時代の終身雇用や年功序列制度の復活を望んだところで、経営者側が”国際競争力”を持ち出し、会社は株主のモノであるという認識が主流である以上、そういった制度が昔のように復活することはあり得ず、日本国の年金、福祉、医療といった社会制度が崩壊しかかっている現状を考えれば、サラリーマンという職業を選ぶことがハイリスクな選択だと言えます。  歴史を学んでいれば、終身雇用や値控除列といった以前の日本の会社システムというのは、高度経済成長期など、人手が慢性的に不足している社会で人材を確保し繋ぎ止めておくための制度として発達していった事は常識で、現在のように、常に1人当たりの生産性や利益率を上げていかないと競争に負ける時代になれば、全体の利益を維持か増加させながら社員の総数を減らすことが不可避ではなかろうか?  つまり、いくら”定年まで御社で勤め続けたいと考えています”と面接時に本気で言ったところで、会社の方は、”あ、それたぶん無理”と思いながらとりあえず採用しているケースが多いわけで、しばらく教育しても”ゆとり~君”のままで使い物にならなければ、年齢に関係なくリストラ候補になってしまうのは必然ではないかと。  そんなわけで、数粒飲めば頭が良くなる頭脳明晰薬のようなものでも発明されなければ、ゆとり~君世代の未来は暗いと見ているのですが、ガリバー旅行記だったかには、暗記したいことを書いて食べれば暗記できるパンというのが出てきたから、昔から似たようなことで人類は悩んでいたのだろうかとも(笑)。  そういえば、魚油に含まれるオメガ3脂肪酸は、心臓などには好影響を与えるものの、従来言われていた脳の機能を高める効果は無いという倫敦大学の研究結果が公表され、従来の”認知症になりにくくする効能がある”といった説もいささか怪しくなってきました。  ただし、この倫敦大学(衛生熱帯医学大学院)の研究は、”70歳代の男女748人を対象に2年間かけて行った調査”では、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を摂取したグループとしなかったグループに、認識機能の差は確認できなかったというだけの話で、長期間摂取した場合の結論が出たわけでは無いようです。  ちなみ、”そういえば、先生はサプリメントが好きなのにDHAやEPAの類を摂取していませんでしたよねえ?”と聞かれたので、”んなもんに効果があるなら、日本の漁師町と都市部、漁師町と山間部の各年齢層の間で認知症の発生率に統計学的に有意で明確な差が出てるとはなぜ思わない?”と返事をしておきました(笑)。  実は、EPAやDHAが脳に良いという話になったときに、とあるお金持ちが”それならば ・・・”と、金にモノをいわせて1日に数個の鮪の目玉を欠かさず食べる食生活を2年近く続けたことがあったのですが、結果的にその人は脂肪過多となり、みとごとな霜降りの肝臓を体内に培養することに成功し、ドクターストップもかかって食生活を改めたそうです。  そして、ここが肝心ですが、そこまでムキになってEPAやDHAの類を摂取して、頭脳は明晰になったのか?というと、主観的にも客観的にも賢くなった兆候は無く、体調が悪化した関係でどちらかといえば仕事の細かなミスは増加し意志決定などは鈍くなっていったのだそうです。  もちろん、この手の頭脳明晰薬の話は、胡麻が良い、ローズマリーが良い、・・・、銀杏の葉が良い、といった具合に他にもごまんと有り、別にオメガ3脂肪酸が脱落してもさほど問題が無いような気がしますが(笑)、DHAやEPAを含むサプリに高い金を出していた人も中にはいたかもしれません。  なお、摂取すればするほど脳細胞が死滅する速度が上昇し、早くオバカになっていく逆頭脳明晰薬としてはタバコが有名ですから、酒や煙草はそれなりの覚悟を持って楽しむべきだとは思います(建前) ・・・ 俺の近くでタバコを吸うんじゃねえ~(本音)。 初出:一夢庵 怪しい話 第3シリーズ 第792話:(2010/05/01)

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