【脾臓摘出】手術日
S病院の時間外面会時間は朝の10時から。手術日当日は朝早くから病院に行き、エリーのそばにいてあげたかったがダメだった。病院のルールを守り10時になるまで病院の駐車場に待機していた。エリーの手術は血小板が3万になってからのスタートなので、朝から血小板輸血をしてそのときを待った。私はその間エリーのベッドサイドに座り、エリーのお腹をずーっと撫で回した。色白でハリがあって若者らしい本当にキレイなお腹だ。お腹を撫でていると、イロイロな感情が沸き起こり、視界が何度もぼやけてくるが、何度も我慢をした。エリーは私になすがままにされていたが、何も言わず私の好きなようにさせてくれた。お昼12時半の採血で血小板が1万5千まで上がり、あと1時間くらいで3万まで上がるだろうと予測され、手術時間は1時半からと決まった。手術前の準備として、鼻から肺まで管を通した。これは全身麻酔のための管らしい。エリーは「痛い」と言い、ちょっとだけ泣いた。看護師さんに連れられ3階にある手術室まで移動した。エリーはまだ麻酔もしていなかったので歩いてそこまで行った。手術室のドアの前で「あとで読んでね」と、エリーが私に手紙をくれた。エリーは泣き笑いのような顔をして私たちを見てる。私は止めようとしても涙は止まらず、笑って「頑張ってね」と言いたくても私の口からは嗚咽しかでなくて、手術前のエリーに勇気を与える事は出来なかった。それはちぃも同じでエリーの手を握り、滝のような涙を流していた。ダーリンだけが、「エリー頑張れよ。パパたちはそう祈って待ってるからな。ずっと待ってるから安心して手術を 受けておいで・・・頑張れよ」そう力強く言ってエリーを見送った。エリーは手術室のドアが閉まるまで私たちに手を振っていた。待合室に戻り、エリーがくれた手紙を開いた。これがその手紙の一部分。 Dear ママ この度、脾臓を摘出する事になりました。 今、私はきっと手術室の中でしょうね。 きっと不安な気持ちでいっぱいだと思いますが 頑張ってきます。 そして本当にごめんなさい。 脾臓は今までに別にこれといった役割はしてい ませんが十七年間私といっしょに育ってきた、 ママが作ってくれた臓器です。肺のように酸素を 取り入れたり、心臓のように体中に血液を巡らせ たり、胃のように食べ物を消化したりしません が、脾臓はママが作ってくれた大切なモノでし た。それを摘出しないといけないところまでき てしまった自分が情けないです。 自分の力で、体内で治癒できなかったことが 悔しいです。ごめんなさい。 手術室から出てきたエリーは、脾臓のないエリ ーですが今まで通り可愛がって下さいね(笑 血小板が5万くらい・・10万くらいになる事 を祈って眠りにつきます。 次に私が目を覚ます時、必ず私の目の前にいて 下さい。では From エリーこの手紙の差出人の名はエリー(脾臓有り)よりとなっていた。こんな時まで茶目っ気を利かせたエリーを思うと・・私はその手紙をダーリンとちぃに回し、テーブルに突っ伏し寝たふりをした。ダーリンとちぃにはバレバレでも、周りの人には寝てるように見えるだろう。どのくらいの時間を待てばいいのかは、エリーの血小板の数値次第なのだが、だいたい3時間くらいと聞かされていたので、私たちは静かに待った。ちぃは術後のエリーに宛てた手紙や絵を描き、ダーリンはゴルフの雑誌を読み、私はダーリンが用意してくれたPSP(携帯用のゲーム機)で映画を1本観た。ジョディー・フォスター演じる母親が、飛行機の中で行方不明になった娘を捜すストーリーだが、ところどころ集中出来ずに話の前後が分からなかったが、良い時間つぶしにはなった。あとは新宿の上空を眺め、誰ともなしにただ祈り、ひたすら待った。不安が限界に達した午後6時半ちかくにやっと、「エリーさんのご家族の方、手術が終わりましたので医師からの説明があります。 3階の手術室横の部屋に移動して下さい」と、声がかかった。ちぃをドアの外に待たせ、私とダーリンでMドクターの説明を受けた。Mドクターの手はふやけたように真っ白で、長時間手術用の手袋をしていたことを物語っていた。そのMドクターの説明によると(脾摘についての詳細は後日更新します)●胃の近くの筋肉を切断したり、すい臓と脾臓の間を切断したり、 通常はその筋肉に痛み止めの注射を打ちながらの手術となるのだが、エリーの場合は血小板が 低いので注射痕でも出血すると危険なので、痛み止めの注射はしていない。 点滴で痛み止めを身体には入れるが、それでも麻酔がきれたあとはかなり強い痛みがあるだろう とのこと。●腹部についた傷痕は全部で4箇所。 1番大きいのは脾臓を摘出した所で3センチ程度。 その穴には管を通していて、すい臓からもれ出る液を体外に出す為で、これを体内に残すと 他の臓器を溶かしたりして危ないらしい。●手術中の出血量は50cc●手術直後の血小板は6万。 これは血小板輸血をしている効果もあるのでエリーの本当の血小板ではなく、 出血を止める為に維持させている数値。●通常は溶ける糸で縫合するらしいが、エリーの場合はしっかりと縫合するために、後で抜糸が 必要とされる糸で縫合したこと。それとエリーとの約束を果たす為にも、私自身のためにもしっかりとこの目で摘出された脾臓を見た。脾臓は100gくらいの重さで、事前の説明通り原型は留めていなく小さく切断されていた。エリーとの約束は脾臓にお礼を言うこと。私は心をこめて言った。脾臓を見れないエリーの分も心をこめて言った。「エリーの身体から切り離してごめんね。17年間エリーの力になってくれてありがとう。 今日でお別れだけど・・今までありがとう」エリーの顔を見ることが出来たのは7時半ごろ。まだ麻酔が少し残っているエリーは意識が少しモウロウとしていて、それに体中に管を通され酸素マスクもしていて、イロイロな機械を取り付けられ・・とても痛々しかった。ただ、「痛い・・痛い・・」とだけエリーは言って、右手で空をつかむように動かしていた。私はその手をしっかり握った。手術の日でも面会時間は8時までしか許可されていなくて・・「帰らないで・・」と、泣きながら弱々しく言うエリーをおいて私たちは帰らねばならなかった。握ったエリーの右手には、手術中も手術台に置いていたパパのお守りを私の手の変わりに握らせて私たちは帰らねばならなかった。身体も心も傷だらけのエリーをおいて帰らねばならなかった。帰りの車中で3人とも、今日は何も口にしていないのを気付きファミレスに立ち寄ったが結局はお金の無駄になった。精神的に疲れ果て・・それでもエリーのことだけは頭から離れず・・眠れぬ夜をまた過ごしてしまった。人間は自分の宝物を傷つけられた時に何も出来ず手をこまねている時、どうしようもなく無気力になることを知った。今日(24日)のことエリーは創の痛みがまだ続いていますが、自分の足で立ちゆっくりですが歩いています。外科的なほうは日に日に回復しているようで、身体に通した管も徐々に減り、今は左わき腹の管だけになっています。この管も明日かあさってにはとれます。抜糸は28日の予定です。血小板のほうはまだはっきりとは分かりません。止血剤や血小板輸血もまだ点滴されているので、エリー自力の数値はまだ計れていない状態です。昨夜から血小板輸血もやめたので今日には分かるかもしれません。採血結果を聞くのが恐い気持ちもあります。3時からの面会に合わせて今から病院に行って来ます。