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January 22, 2005
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癒しの本: 『にぐるま ひいて』
< 文 ドナルド・ホール 絵 バーバラ・クーニー>

親子4人の自然の中での暮らしはシンプルで、それ自体で完結しているものに見えます。
でも、実際には、経済社会の循環の中にあるものなのです。

家族4人の1年間の汗の結晶は、市場で売られ、お金に交換されます。

「 うしを ひいて 10日 がかりで おかを こえ たにを ぬけ
 おがわを たどり のうじょうや むらを いくつも すぎて
 ようやくのこと ポーツマスの いちばへ ついた        」 

父さんは、ポーツマスの市場で、家族が作った品物を次々の売っていきます。

「 とうさんは ひつじの けを うった。
 かあさんが つくった ショールも うった。…
 りんごも はちみつも … かえでざとうも がちょうのはねも うった。」

そして、一切合切を売り払うのです。

「 それから とうさんは かえでざとうの あきばこを うり
 りんごの あきだるを うり じゃがいもの あきぶくろを うり
 それから からの にぐるまを うった。
「 さいごに うしを うり げんきでなと はなに キスをした。
 うしの くびきと たづなも うった。               」

荷車や牛まで売ってしまうのですから、身軽になって、ポケットにお金があるだけです。
そのお金で、買い物をします。

・暖炉で煮炊きするための鉄の鍋。
・娘のための刺繍針。
・息子にはほうきを作るバーローナイフ。
・家族みんなのために、ハッカキャンディー2ポンド。

そして、また長い道のりを、家族の待ちわびる家路につくのです。


この家族の生活は、経済社会のシステムに汲み入れられたものでしょうか?
そうとも言えるでしょうが、ここではあくまで必要最低限の「道具」の調達ですね。

生産が生活の中心にあって、そのための道具を買っているんですね。
道具を手に入れて、またいつもの、ゆったりした、変わらぬ生活が営まれるのです。

この話を通して、伝えようとしたメッセージはなんしょうか?
私には、この話が、消費社会に生きる人たちへのメッセージのように思えます。

あれも欲しい、これも必要。
友人が持っているアレが欲しくてたまらない・・・
でも、手に入れたから満足感が得られるとは限らない。
消費には、際限のないところがありますね。
いつまで経っても「幸福」の後ろ姿しか見えない。。。

この作品は、「○○みたいな生活をやめよう」とか「○○ライフを実践しよう」
といった、何かを提案したり、主張したりは、決してしないのです。
ただただ、謙虚で穏やかで、そして満たされた家族の生活が描かれます。

それは、必要以上に蓄えたり、必要以上に消費したり、逆に不足をガマンしたり
という状態とは無縁なメンタリティーですね。
そして着実に、次の世代に、その生活技術やメンタリティーは受け継がれていくようです。

シンプルな描写を通して、心が満たされる条件が表現されます。
実際にはまねが出来ないのでしょうが、「そういう生き方もあり」と
感じさせてくれるところがあります。

それは失われた「伝統」とも言えそうな生活。

ドナルド・ホールは、この作品のいきさつについて、次のように語っています。

「 そもそも、この話は、近所に住んでいたいとこから聞いたものです。
 そしてそのいとこは、幼い頃、ある老人から聞き、その老人は、
 子どもの頃、大変なお年寄りから聞いたのだそうです。

 語り継がれたこの伝統のすばらさし!                 」





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Last updated  January 22, 2005 12:43:33 PM
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