14.ハナミズキの並木道14.ハナミズキの並木道「シェーラザードとは、まるでアラビアンナイトですね。」 若い物書きは肩に少し大きくなったキャンドルの妖精をのせ。 荷馬車の助手席でガタゴトゆられ。 「シェーラザードというのは、市場の所有者である領主の奥方のなまえです。 芸術を深く愛する心優しい方です。 市場も奥方の発案でつくられたんです。 商売をしたい者はだれでも無料で使えて、立ち上げ資金も貸してもらえます。 無利子無期限でね。商売がうまくいって独り立ちできるようになると、 他に店を構える手助けもしてくれます。 市場の運営は全て寄付でまかなわれています。 うさぎ屋さんは奥方の友人で、大口の寄付をつづけておられましてね。」 愛しい者の名を口にするときは誰でも。 銀狼も例外ではなくて。 「え、なに、うさぎ屋さんの本業は染物屋なんです。 あの美しい色合い着物をごらんになったでしょう。 異国からも注文が殺到していて繁盛しておいでですよ。 私ですか?・・・いろいろなんですが、ライブハウスで歌っています。 放浪の末に故郷に舞い戻ってきたってやつでして。 領主は私の兄です。」 心地よい語り口に、時を忘れて。 やがて前方には、花咲く並木道。 「ハナミズキですよ。街路樹としては珍しくはないんですが、 市場へのプレゼントで、願いを籠めてね、森のみんなで植樹したんです。 あの花弁みたいに見えるのは、 ‘総苞’といって葉の一種なんだそうです。 いまは開いていますが、もう少しすると立ち上がって輪状に丸まるんですよ。 ちょうどそこにハナミズキの花の写真があります。 ええ、それです。そんなふうになるんです。 それで、『商売が立ち上がってお客さんが集まりますように。』ってね。」 樹々の床にはシャガの花。 キャンドルの妖精の羽。 きみは花のように… 写真:TS ジャンル別一覧
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