259039 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

不思議の泉

不思議の泉

14.ハナミズキの並木道

14.ハナミズキの並木道



「シェーラザードとは、まるでアラビアンナイトですね。」


若い物書きは肩に少し大きくなったキャンドルの妖精をのせ。
荷馬車の助手席でガタゴトゆられ。


「シェーラザードというのは、市場の所有者である領主の奥方のなまえです。
 芸術を深く愛する心優しい方です。
 市場も奥方の発案でつくられたんです。
 商売をしたい者はだれでも無料で使えて、立ち上げ資金も貸してもらえます。
 無利子無期限でね。商売がうまくいって独り立ちできるようになると、
 他に店を構える手助けもしてくれます。
 市場の運営は全て寄付でまかなわれています。
 うさぎ屋さんは奥方の友人で、大口の寄付をつづけておられましてね。」


愛しい者の名を口にするときは誰でも。
銀狼も例外ではなくて。


「え、なに、うさぎ屋さんの本業は染物屋なんです。
 あの美しい色合い着物をごらんになったでしょう。
 異国からも注文が殺到していて繁盛しておいでですよ。
 私ですか?・・・いろいろなんですが、ライブハウスで歌っています。
 放浪の末に故郷に舞い戻ってきたってやつでして。
 領主は私の兄です。」


心地よい語り口に、時を忘れて。
やがて前方には、花咲く並木道。


「ハナミズキですよ。街路樹としては珍しくはないんですが、
 市場へのプレゼントで、願いを籠めてね、森のみんなで植樹したんです。
 あの花弁みたいに見えるのは、
 ‘総苞’といって葉の一種なんだそうです。
 いまは開いていますが、もう少しすると立ち上がって輪状に丸まるんですよ。
 ちょうどそこにハナミズキの花の写真があります。



ハナミズキ1TS
        ハナミズキ2TS



 ええ、それです。そんなふうになるんです。
 それで、『商売が立ち上がってお客さんが集まりますように。』ってね。」





樹々の床にはシャガの花。
キャンドルの妖精の羽。



     きみは花のように…



シャガTS








                                       写真:TS


© Rakuten Group, Inc.