葬儀は質素な物だった!冴は泪さえ見せず気丈に振る舞っていた。こんな時男はたいして役に立たない。車を借りて冴の親戚の人の送迎をしたり、お坊さんを迎えに行ったり、葬儀会場をFAXしたりと僕はそんな事をしながら、時より葬儀場の花が増えて行くのを眺めていた。「本人はこんな時何処かで観ているのかな?僕もいつかはこんな日がやってくるんだろうな?」そんな事を少し想像してみた。そんな時誰に一番逢いたいと思うんだろう?葬儀場を後にの金沢の野鳥公園から夕日を眺めた。そんな事を考えていたら、涙がこぼれて来た。この世は冴の父には行き止まりでも、僕には真っ赤な夕焼けが明日を約束してくれている様だった。その晩テレビのニュースキャスターは今日は記録的な猛暑だったと告げた。
翌朝、僕は会社の営業部長に電話を入れた。親戚の不幸で有休を使わせてくれと電話で言った。「雄介!お前何親等の親戚なんだ!この糞忙しい時に!親の死に目にも逢えない仕事で、お前の仕事の代わりは出来んぞ!分かっているのか!」僕は受話器から耳を離した「すいません」それだけ言って電話を切った。何が出来る訳じゃ無いけど、僕は冴の父の側にいた。「雄介さん、好きな様にやったらいいよ」そんな風に言われている様だった。僕は冴の父の顔を見ていた。まるで、自分の運命を知っている様な潔い最後だった。短く刈込んだ髪に自慢のネーム入りのシャツに麻のジャケット姿が彼に初めて逢って日の事を思い出させた。「貴方は僕に何を期待していたのですか?僕は貴方に何も出来ないままで早すぎます」息子の居ない彼に好きだった酒を勧め、最後まで彼が手放せさなかったロングピースを僕が吸って最後のお別れをした。 つづく。
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Last updated
2005.06.05 23:34:59