サムライ。
「勝つか負けるかただそれだけさ、人生のシナリオなど破り捨てろ」あいつの歌が新逗子の居酒屋の片隅に流れた。敵か味方かただそれだけなんてそんなふうに考えるのは愚かな事だと思っていたが、イザ自分に火の粉がかかってきたらそんな奇麗事を言ってられない。この坂道を登り切って頂上に立つのか?それともシッポを巻いて逃げ出すか?その二つに一つなのだから。僕は悩んでいた。上司と上手くやって行きたかったし、わざわざ会社の中で波風を立てる様な事をしたく無いと思った。奴には家庭や子供もいる訳で、僕みたいな小僧なんて、いちいち構うより大人として扱えばいいだけなのに。
でも、物を販売していく仕事と言うのは男と男のプライドがそうはさせない。「雄介、お前みたいな部下はいままで始めてだ。絶対俺に逆らえない様にしてやる」奴が僕に刀を抜いた。「僕はそんな小さな事言っているんじゃ無いですよ、やり方が間違っているからそう言ったまでで、ですが逃げはしないですよ」男には背を向けて逃げられない瞬間がある。僕には失う物は何も無かった。果たせなかった約束、僕を裏切って消えて行った恋人、ギリギリの生活、捨てて来た故郷の街、中の悪い実家の両親、眠るだけで手を伸ばせば必要な物は全て手に届く狭い部屋。僕の前を立ちはだかる物があるのなら、戦うだけだ。今の僕には覚悟が違う、腹は決まったもう奇麗事を言うつもりは無い。怒りは新しいパワーを生み出す。たかが、かばん屋されどかばん屋日本が生み出すこの国に合った新しい商品を僕は一つ一つお店で集めた改良点の話を文字で集め、そして僕が考える商品をイメージさせながら、工場長とデザインのデッサンをする型起こしの社員と毎日ミーティングをした。「必ずいい仕事をしていれば必ず認めてくれる人はいるはずだ」販売をする事はある種の人気投票の様な物だ。「怒りは最大のパワーの源なり」僕は上司の顔を胸に刻むのだった。「いつか必ずお前を越えて見せる」いつか冴と話した、この海の近くで暮らす事は君とさよならしてから叶ったけれど、未だ夢の途中だった。
つづく。
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Last updated
2005.07.14 23:38:11