義士の血は碧色に変わる
堂門冬二著『人生を二度生きる――小説 榎本武揚』(祥伝社文庫、2000年)を、東京から三島に戻るひかり号の中で読了する。この本、「蝦夷共和国」が降伏して後に榎本が新政府に仕えた時の部分が、特に面白かった。中でも、黒田清隆の強い要請で北海道開拓使として再び函館の地に立った榎本を待っていたもの…この重さの一端を知る。私は2度函館を訪れたが、一度も見ていないものがある。それが、函館公園の一角にあるという「碧血碑(へきけつひ)」である。箱館戦争で死んだ旧幕臣を、後に榎本が埋葬した碑であることは、旅行ガイドブックなどで知っていたが、この小説にはそれを榎本が建てる際のいきさつに触れてあった。次回の函館訪問の時には、行かなければ。それにしても、五稜郭タワーには土方歳三の像が複数立っていたが、榎本の像は立たないのであろうか? それとも、榎本軍に夢を託して参加し死亡した人々の子孫には、まだ榎本に対して「多くの幕臣を無駄死させておきながら、自らはぬけぬけと生きながらえて新政府に仕えた変節者」という思いがあるのだろうか。