これは、私とゴキブリとの長年にわたる宿命の戦いの記録である。
・・って、大げさだよ・・
「黒凶記」(その1)
別題・コックローチ・サーガ
私が幼少の頃は、文化アパートとも言うべき共同住宅で暮らしていた。
そういうところは、台所が、共同。
それぞれの家用に戸棚が設けられていて、調味料とか道具を入れていた。
ときどき、部屋に置いてる醤油とか無くなると、
「strちゃん、台所から醤油をとって来てちょうだい」
と頼まれるわけだ。
これが、冬なら、まだ、いい。
寒いだけであるから。
しかし、夏の熱い夜・・・
だいたい醤油が醤油入れから無くなるのは、夕食の団らんの時間である。
もう台所は真っ暗だ。
蒸し暑い。
壁の電気のスイッチをかちっといれると、
床の上やガス台にあった「黒いもの」が、ササーッと動く。
ぞぞぉぉーーーっ!!!
ああ、やっぱりいたか・・
見るだけでも、文字通り、
「虫酸が走る」!!!
子供の時は、最初ただの虫かと思って、手で叩いたこともあった。
でも、親から、あれは汚い虫なので、手で叩いちゃダメ!
と注意された。
伝染病をまき散らす悪い虫なんで、絶対触っちゃダメ!!
そう教育された私は、それでも、そんな環境に住んでいたわけだから、常に、ゴキとの遭遇に悩まされていたわけだ。
そんな私も、小学生になりやんちゃになってくると、まず、台所の電気をつける前に、ほうきを構えるようになる。
ぱっと、電気を付けた瞬間、動いたものめがけて、ほうきを叩きおろすのである。
ガス台をうろちょろしているやつは、なかなか叩きにくい。
しかし、床の上に這いずり回るやつは必ず
仕留める!!
しかし、そんなおんぼろアパートであるから、やっつけてもやっつけても、ゴキブリは減るどころかますます増えていく。
それもそのはず、なんせ、ゴキブリは、一匹見たら、その2、30倍はいると言う。
つまり、台所の電気をつけた瞬間、ササーッと4匹ほど見かけたら、120匹はいる計算になる。
これではたまらん!
で、部屋でも見れば、なんと、そのアパートには500匹くらいのゴキブリがいることになるのだ。
(たぶん、もっといたと思う)
こいつをやっつけなくては、僕たちは伝染病にかかってしまう!!
そう信じ込んで、夏の夜は、毎日のごとくほうきを振り回していたのである。
そんな暑い夏から逃げるために、田舎に行く。
これは、もう都会の家どころではない。
ゴキブリとの共存生活と言っても過言ではない。
また、ジジババ達が、ゴキブリが平気なんだ、これがまた・・・
だいたい田舎に遊びに行くのが、お盆の頃だと、仏壇にいっぱい果物が供えられる。
これが、もう、ゴキブリの集会所と化している。
夜になると、例の
ガリガリガリ・・・
という、齧る音に悩まされる。
「お母さん!!ゴキブリがいるよ!!」
と、夜中騒ぎだす私。
「ほおっときなさい!!」
都会の家にいると、母親もゴキブリに神経質になっているはずなのに、田舎に帰ると、変わってしまう。
試しに、懐中電灯で照らすと、
うああーーーー!!!
東京で見るよりでかい黒光りしたやつが、数匹、お供えの果物の周りを這いずり回っている。
やだなあ、こわいなあ。
なんて思っていると、天井からボタ!!とムカデが落ちてくる。
きゃあーーーーー!!
田舎の家なんて、こんなものである。
ゲジゲジ、ムカデ、ゴキブリは、いて当たり前。
せいぜい、マムシが家の中に入って来たら大騒ぎするくらいなもんである。
それでも、私の精神は、ジジババのようにはなれなかった。
なんせ高等教育を受けているから、「ゴキは伝染病の配達人」であるということを心底から叩き込まれている。
東京に帰ると、再び、台所でゴキとの戦いが始まる。
そんな時、
ついに、私の前に、強い味方が現れた。
(つづく)