JEWEL

2013/09/26(木)20:40

金魚花火 第2章:蟠り(5)

完結済小説:金魚花火(170)

「あ、これ安くねぇ?」 「え、どれ?」 大阪市内のインターネットカフェで、数人の少年達がパソコンの画面を食い入るように見ていた。 そこには、彗が作成した通販会社のオンラインショップの画面が映っていた。 “格安サプリメント”、“スーパーマンになれるお薬、あります”という広告が躍っており、少年達はそのサプリメントの正体が何なのか解らずに、「購入」ボタンをクリックした。 「彗、お前が作ったオンラインショップの売り上げ、順調じゃねぇか?」 「ありがとうございます。」 「これからも宜しく頼むよ。」 「はい!」 「さてと、お前への労いとして、今日は俺が飯、奢ってやるよ。何がいい?」 「焼肉がいいっす!」 「そうか、じゃぁ行こうか。」 枡田とともに事務所を出た彗は、彼が行きつけの焼肉店へと向かう途中、お座敷帰りの真那美とすれ違った。 「あいつが、お前が話していた知り合いか?」 「いいえ。」 「そうか。」 真那美を危険に晒したくなくて、彗は咄嗟に嘘を吐いた。 「なぁ彗よ、お前ぇん所の爺さん、まだ現役か?」 「ええ。それがどうかしましたか?」 「俺の所で働いていいのか?」 「別にいいんですよ、祖父ちゃんもあの人達も、何も言わないし。」 彗はそう言うと、目の前にある網に置かれているカルビを一枚自分の皿に取り、それを口に放り込んだ。 「美味いか?」 「美味いっす!」 そう言って屈託のない笑みを浮かべる彗を見ながら、枡田は彼が家族運に恵まれていないということがすぐに解った。 枡田も、悲惨な家庭環境の中で育ったからだ。 彼の父親は枡田組の組長で、母親は父親の星の数ほど居る愛人の一人だった。 幼い頃から“ヤクザの息子”と呼ばれて苛められたことがあったが、いじめっ子に殴られたら殴り返し、罵倒されたらその分罵声を浴びせた。 中学の時には、凶暴な上級生たちをも震え上がらせるワルへと成長し、毎日喧嘩三昧の日々を送っていた。 父親はそんな枡田を見限りはしなかったが、彼との関係は冷めたものだった。 「なぁ彗よ、お前ぇ親父さんとは仲悪いのか?」 「仲が良い、悪いの前に、親父は俺なんかに関心持ってませんから。親父は、俺の事産まれなきゃ良かったと思ってるんですから。」 「俺でよけりゃぁ、話聞くぜ?」 「実はね・・俺、死んだお袋が不倫して出来た子どもなんすよ。父親は何処の誰なのか知りませんし、興味ありませんね。金には不自由しなかったけど、いつも一人だった。寝る時も、飯食う時も。」 「そうか、寂しかったんだな。これからはよ、俺を実の兄貴と思ってくれよ。」 「はい、宜しくお願いします!」 「可愛い奴だなぁ、お前ぇは。」 枡田はそう言って豪快に笑うと、彗の頭をクシャクシャと撫でた。

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