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二宮翁道歌

「二宮翁道歌解」より

【15】父母もその父母もわが身なり
  われを愛せよ われを敬せよ



 この歌は他に向かって 我を愛せよ、我を敬せよ というにあらず。
わが心にてわが身を愛せよ、われとわが身を敬せよという心なり。
父母は祖父母の身を分けしなり。
祖父母は曽祖父母の身を分けし身なり。
先祖遠祖まで皆同じ。
されば我が身はすなわち父母なり祖父母なり先祖なり。
先祖父母の身すなわち我この身なれば、粗略にせず等閑(とうかん:なおざり)に思わず、父母先祖の血脈を受け継ぎし、父母の遺体なれば、我とわが身を愛護し敬まいと謹みを加えて、不善不義の名を身に負わぬはもちろん、肌えも傷つけぬよう、大切にこの身を持つべしとの教えなり。
かくしてこそ我が身を敬し、我が身を愛したる実行というべし。


【35】
 はや起きにまさる勤めぞなかるべし
  夢でこの世をくらし行く身は


「これは人々に、朝は必ず早く起きるべき物ぞということを諭されたものである。
(略)
ちなみにいう。
私が先師のもとに出でし時、これを学びこれを修行するという、方向がないのに苦しんだ。
先師は朝がいたって早く、夜は遅く、芝の増上寺の8つの鐘を聞いて、床につくことがたびたびあった。
それでも暁には起きられたものであった。
毎朝、風呂場に手桶一杯ずつ水を汲み置いていた。
先師はお起きになると、まず手を洗い、口をそそいで、この水を肩から自分でかけられた。
このことは年中途切れることがなかった。
私はひそかに思考するに、ここにあっては先師の行いを見て、それに習おうと心がけて、先生の説話を聞いて、よく記憶して粗末な衣服と粗末な食事と朝早く起きて夜遅く寝るという修行だと心に決めた。
これから私も毎朝水を浴びることを始めた。
このとおり早起きはよく修行したものである。
(略)
朝起きる修行ばかりでも、生涯には莫大の幸福である、と筆のついでに記す。」


 腹くちく食うてつきひく尼かかは 

  仏にまさる悟りなりけり

【56】

 飯と汁木綿着物は身を助く
  その余は我をせむるのみなり


歌の心は解するに及ばず。
この歌は解するは安く、行うは至って難き歌なり。
この歌の覚悟極まりたる人にあらざれば、大業を成就する事難し。
一家を興すも、一村を興すも、一国を興すもその分あり。
この覚悟に至って、十分極めざれば、我が方法の事務を取るは至って難き事なり。
この覚悟一つ極まれば、才少なきも、学少なきも害なし。
この覚悟を極めて、大業を成就せしは、富田氏、斎藤氏なり。
降りて安居院氏、福山氏また近し。
この覚悟未熟の者は、半途にして廃せり。
この歌の事務者に必要なる事、夜話3の56にあり、必ず見るべし。
この境界に至って日夜楽しんで起臥し、楽しんで明かし暮らす、もっとも難きところなり。
勤めてその味を知るべし。


【58】
 右にもつはしに力を入れて見よ
  左の酒がやむかつのるか


 右にもつはしとは、日々食うて命をつづくる飯をいうなれどすなわち生活のことなり。
生活に力を入れて見よ、というなり。
生活に力を入るるは、親先祖に対し、子孫に対したる義務なればなり。
酒は百薬の長とはいえど、弊害もまた多し。
戒めて過酒すべからず。
酒を過ごせば、第一品行乱れ、過ちを仕出かし、病を生じ、家業を怠り、財産を費やす。
謹んで薬だけに飲みて、多く飲む事を慎むべし。
断然禁酒するはもっともよろし。
大猛力を出して、思い断つべし。

 ちなみに記す。
 ある人問う、
 卿(きみ)が著(あらわ)せる、報徳8条目に過酒戒あり。
過酒は何をもってその度を定めるや。
予答う。
昔、小田原に某老人あり。
この老人は先師の、平素愛敬せらるる人なり。
小田原在なる曽比村の剣持広吉、先師のもとに来たれり。
先師曰く、
「某の老人は無事なりや。」
広吉曰く、
「無事なり。
過日、右の老人を訪問せしに老人のいわるるに、さてもさても困却なる事到来せり。
近来家政不如意なるをもって改革のために、家内禁酒と極(きま)りたり。
是には困却せりと大いに患い居らるる」といえり。
先師曰く、
「それは気の毒の事なり。
若き時は呑まぬ方よろしけれど、酒好きの者老人の禁酒ははなはだわろし。
あたかもよし汝は造酒家なり。
日々小田原に便りあるべし。
汝帰国せば毎月一日11日21日と、3度に酒1升ずつ同老人生涯の間贈りくれよ。
代料は予現金に払うべし」と、金若干を渡さる。
広吉辞していう。
「代料に及ばず。
私の飲料を一日一合ずつ減らしてその分を贈るべし」と。
先師承引したまわず。
「汝酒を減ずるその志誠によろし、それは善種金に出すべし。
老人には予が贈るなり。
この金は受け取るべきなり。
この酒は手数なりとて、一度に2升贈る事なかれ。
必ず1升ずつ、予が依頼の通り贈るべしと。
先師の妻君かたわらに在り曰く、
「かの老人は大酒なりと聞けり。
一日1合にては不満なるべし。
2合にもなしたまえ」と。
先師曰く、
「もとより僅少、不満なるは言を待たず、この酒は老を養わんがために贈るなり。
朝昼夕少しずつ飲まば、この上なき酒なり。
実に百薬の長なるべし。
それより多きは贅沢なり、贅沢には限りなし。
1合より多きは、害無きも益なし。
何ぞ無益の事をなさんや、何ぞ贅沢の手伝いをなさんや。
ただ益なきのみならず、害無しともいい難し。
何ぞ害ある事をなさんや」と訓戒せられし事ありき。
されば一日1合より多きは、贅沢なれば、一日1合をもって度とすべきなり。
されば下戸は、一日5勺なるべし。


【60】

 腹くちく食うてつきひく賎の女(しづのめ)は
  仏にまさる悟りなりけり


 腹くちく食うてつきひく尼かかは
  仏にまさる悟りなりけり


それ人のみならず、犬猫に至るまで、わが腹に食満ちれば、寝ているは犬も猫も心無き物の常情なり。
然るに食事を済ますと、直ちに明日食うべき物をこしらえるは未来の明日の、大切なる事をよく悟るゆえなり。
この悟りこそ人道必要の悟りなり。
この理をよく悟れば、人間の世はそれにて十分なり。
これ我が教え悟道の極意なり。
悟道者流の悟りは、悟るも悟らぬも、ともに世の中に損益なし、と諭されし事有りき、
すなわちその心なり。


【65】無尽蔵

 天つ日の恵みつみをく無尽蔵
  鍬でほり出せ鎌でかりとれ


これは大地の功徳をよまれしなり。
天(あま)つ日(ひ)の恵みつみ置くとは、この大地より万物の発生するは、天つ日のみ光が、日々大地に入りて、それが発生するなれば、天照皇大神の積み置かせらるる所の大地の土蔵、すなわち地上には、米麦百穀果樹竹木あり、地中には金鉄・玉石・石炭・石油などありて、幾万万年とれどもとれども、尽くる事なければ、無尽蔵と読まれしなり。
かように無尽無量に積み置かせらるる、無尽蔵の大地であれば、鍬鎌の鍵をもって、この蔵をひらき、何ほどでも、気根次第、精力次第に掘り取り刈り取っておのおのが日々の用になし衣食になし、国家を富有にすべしと、よまれし歌なり。


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