現代俳句(抜粋:後藤)(79) 富田木歩(1)
6月18日(火)現代俳句(抜粋:後藤)(79)著者:山本健吉(角川書店)発行:昭和39年5月30日富田木歩(1)我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮大正6年作。境涯の俳人。二歳にして躄(あしなえ)となる。小学校教育もろくに受けることが出来なかった。陰気な四畳半に、肺結核の高熱に苦しみ寝ている作者の暗い句。蜘蛛のふるまいに何か不気味なものの影を見ている。自己の運命をみつめ、死を予期した者の静かな忍従がある。自分の姿を客観視したこの句の態度が、いっそうこの句の背後に隠された作者の思いを浮かび出させる。己(おの)が影を踏みもどる児よ夕(ゆふ)蜻蛉(とんぼ)大正6年作。作者は、貧しい者、弱い者、不具なる者への愛情があふれる。幼い者への愛情も同様。夕日を背にして、自分の影を、影をと踏みながら、夢中になって歩いて来る児の姿。「夕蜻蛉」の配合によって、遊び戻りの児の動作に、何か童謡めいた情趣がただよってくる。 (つづく)