2016/01/04(月)16:44
2015年のコンサート、器楽曲編
2015年に聴いたコンサートのまとめ、続いては器楽曲編です。
○ピアノリサイタル
1/31 オルガ・シェプス 武蔵野市民文化会館小ホール
2/ 8 リフシッツ バッハ:音楽の捧げもの 東京文化会館小ホール
3/ 2 ブロンフマン プロコフィエフ:ソナタ6,7,8 武蔵野市民文化会館小ホール
4/ 3 メルニコフ ショパン&スクリャービン 武蔵野市民文化会館小ホール
8/ 8 アンダーソン&ロウ(ピアノデュオ) 武蔵野市民文化会館小ホール
11/23 ラシュコフスキー スクリャービン:ピアノソナタ全曲 武蔵野市民文化会館小ホール
○室内楽
2/ 8 リザレフ(Va)&リフシッツ ショスタコービッチVaSほか 武蔵野市民文化会館小ホール
4/ 2 ボロディンSQ&レオンスカヤ シューマンPQuintet ほか 東京文化会館小ホール
4/ 7 エマ・ジョンソン(Cl) 武蔵野市民文化会館小ホール
6/ 4 庄司紗矢香(Vn)&カシオーリ(P) いずみホール(大阪)
6/16 カレファックス(木管五重奏) バッハ:ゴルトベルク変奏曲 武蔵野市民文化会館小ホール
○その他
11/23 シャイ・マエストロ(Jazz Piano Solo) スイングホール
[ピアノリサイタル・覚え書き]
1月のオルガ・シェプスのリサイタルは、本プロのチャイコフスキーとショパンは普通で、アンコールのプロコフィエフが俄然冴えに冴えた演奏でした。
2月のリフシッツのバッハは、全3回にわたって行われた「バッハの宇宙」の一夜でした。メインプロの「音楽の捧げもの」が素晴らしかったです。リフシッツは近年日本で、2010年にゴルドベルク変奏曲、2012年にフーガの技法、そして2015年が平均律全曲、音楽の捧げものと、バッハの大作をいろいろと演奏してくれています。このうち僕が聴けたのはフーガの技法と今回の音楽の捧げものだけですが、いずれも対位法の深み、静謐を大事にする美しさが本当に素晴らしいです。ニコラーエワ、コロリオフ、ソコロフと綺羅星のように輝くロシアのバッハ演奏の伝統を嗣ぐ、貴重なバッハ弾きのリフシッツ、今後もできるだけ聴いていきたいと思います。
4月のメルニコフは、ショパンとスクリャービンのプログラムを聴いて、良かったけれど、これと別に行われたショスタコ―ヴィチの24の前奏曲とフーガの全曲演奏会には都合がつかず、聴きそびれたのが残念無念でした。
昨年が没後100周年だったスクリャービンは、シベリウスにおされて今一つ盛り上がりに欠けましたが、11月に、シベリア生まれの若いピアニストが、なんとピアノソナタ全曲を1番から10番まで順番に、1日で演奏するというすごいリサイタルがありました。2番3番以外はあまり馴染みがなかったので、この機会にと思ってソフロニツキーの全集でそれなりにひととおり予習していったので、いろいろ発見があり、貴重な体験でした。特に5番が、音型や響きなどの点で、「法悦の詩」とかなり共通のものがあり、聴きごたえがありました。あとで調べたら、ピアノソナタ第5番が作品53(1907年)、「法悦の詩」が作品54(1908年)と、ほぼ同時代に作られていました。プログラムの解説もわかりやすくスクリャービンの音楽への愛がにじみでていて、素敵でした。
[室内楽・覚え書き]
室内楽では、リザレフ(Va)とリフシッツ(P)という豪華な組み合わせによるデュオ・リサイタルが思いがけず行われました。ヴィオリストのリザレフは、以前ラクリンのヴァイオリン、マイスキーのチェロとのトリオで、バッハのゴルドベルク変奏曲の弦楽三重奏版(シトコヴェッキー編曲)を聴きました。ラクリン、マイスキーとがっしりと素晴らしい演奏を繰り広げていましたので、すごい人だと思いました。そのリザレフが、リフシッツと組むのです。しかもヒンデミットやショスタコーヴィチのヴィオラソナタが聴けるというすごいプログラム。なんでも話が急に決まって、リザレフがわざわざこのリサイタルのためだけに来日し、またすぐ帰っていったそうです!ものすごく深い演奏というわけではなかったけれど、いいものを聴けました。またいずれ彼のヴィオラをじっくり聴きたいと思います。
4月には、東京・春・音楽祭の「リヒテルに捧ぐ(生誕100年記念)」シリーズの一つとして行われた、ボロディンSQとレオンスカヤという、これも豪華な組み合わせによるシューマンとショスタコーヴィチの五重奏曲を堪能しました。貫禄十分、文句なく素晴らしい演奏でした。会場の東京文化会館内にはリヒテルの写真などがいろいろ飾ってあり、興味深かったです。
6月には、仕事で大阪に行ったとき、丁度やっていたいずみホールでの庄司紗矢香のリサイタルを聴きました。響きの良さで定評のあるいずみホールをいつか聴いてみたかったのが、ようやく実現しました。2階サイドで聴きました。天井が高く広い空間で、評判通り美しい響きを楽しめました。座席数821席ということですから、東京だと紀尾井ホール(座席数800席)とほぼ同じになりますが、空間、座席の広さなどいずみホールの方がゆったりと贅沢な作りと思いました、
6月にはもう一つ、カレファックス リード・クインテットという木管五重奏団の肩の凝らないコンサートを聴けました。オーボエ、クラリネット、サクソフォーン、バスクラ、バスーンの5人で、メインはバッハのゴルドベルク変奏曲。変化があって楽しめるなかなか良い編曲で、ゴルドベルクのひとつの「ヴァリエーション」として十分に存在価値ある演奏と思いました。彼らは来日を繰り返しているということですので、次の機会も聴いてみたいと思いました。
[その他・覚え書き]
2015年に唯一聴いたジャズのライブは、ソロピアノでした。シャイ・マエストロというイスラエルの人。スイングホールは客席数180席と小さく響きの良いホールです。僕は前の方の席だったので、ここでがんがん弾かれたらちょっときついかもと思って臨みましたが、抒情的で耽美的で、音色がとても美しくやさしいタッチで、素晴らしいソロライブを楽しめました。しかし惜しいことに、始まってほどなく、前から2列目のほぼ中央の席で、聴衆の一人が、盛大な寝息を立てて眠り始めたのでした。大きいホールならさほど気にならない寝息でも、このような小さなホールで、繊細なピアノの演奏には大きな妨げとなります。それでもまだ聴衆が困るだけならまだしもですが、それ以上でした。そもそもこのホールは、舞台の高さは客席とほとんど差がなく、客席との一体感が強い作りですし、しかもその方の席が最高というか最悪でした。よくピアニストが演奏しながら少し客席の方に顔を斜めに向けて弾きますよね。その角度だと、ピアニストの視野のほぼ中央に、その方の姿が大きく映ったはずです。ピアニストとの距離も直線にしてわずか2-3mぐらいなので、もちろんその寝息がピアニストに盛大に聴こえているわけです。それで、ピアニストがその寝息をとても気にして、明らかに困っていて、途中その人をちらちら見たり、困ったように肩をすくめたり、ぼそっとぐちを言ったりしながら弾いたのです。ピアニストがこれほど困っているのだから、寝ている方の隣の人がつんつんして起こせばいいのにと思いましたが、隣の方はそれもせず、かくて前半の途中から前半の最後まで、盛大な寝息が響く中でのリサイタルになってしまいました。休憩のあと登場したピアニストが、最初に真顔で、「眠らないで聴いてほしい、眠るなら外で」というようなことをしゃべってから弾き始めました。これも異例ですよね。そして普通、前半に盛大に眠ると後半は目覚めることが多いかと思うのですが、その方はすぐにふたたび大きな寝息を立て始めたのです!なんたること、今度はまわりのかたもさすがにときどきつんつんして起こしにかかります。その人も起こされた瞬間はすまなそうな身振りをするのですが、またすぐに深い眠りにはいり、再び寝息が。。。。そんなことが続いているうちに、リサイタルが終わってしまいました。あぁ罹災たる。。。その寝ていた方は、人のよさそうな方だったし、まさかここまでのことになっていたとは「夢にも」思わなかったことでしょう。
豪胆な演奏家なら、寝息だろうと何だろうとものともせずに、弾きまくるのかもしれません。「寝息で困って演奏の集中の妨げになってしまうようではプロとしては失格だ、しかもクラシックではなくジャズピアニストであれば、ノイズにタフなはずではないか」という人もいるかもしれません。しかし今回に関しては、そばで一部始終を体験した者として、あの寝息は限度を超えていたと思います。ピアニストの嘆きはもっともだと思いました。
シャイ・マエストロさんに、終演後にサインをいただき、素敵な音楽を聴かせていただいたお礼を言いました。これにこりずまたライブをやっていただきたいと思います。