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カテゴリ:lovesick
悠斗の前で、いっぱい泣いてしまった後、リビングに戻って、みんなの近況を聞きながら、飲み直しました。悠斗が同じ空間にいるというだけで、さっきまで、みんなの中で緊張していた私の心が解けていました。不思議。だって、昔から知っているのは、悠斗以外のみんなの方なのに。愛する、、そして愛してくれる人がいるっていうことは、こういうことなんだな、と思いました。確かに、悟がいたときも、私は、同じ事を感じていたから。悟と同じように、悠斗は、部屋のどこにいても、時々、私を確認するように振り返ってくれる、ただそれだけで、私は私らしくいられました。たとえ、つかの間の休息だとしても。そう、悠斗を傷つけて悲しませてしまうだけの私。ちゃんと悠斗から離れなくちゃいけない、という思いは消えませんでした。
ワインを注ごうとしたら、もう空っぽでした。新しいのを取りにカウンターに行こうとしたら、ちょっとふらついちゃったし。 「おっと、大丈夫?」 抱きとめてくれたのは、カワノくんでした。いつ見ても、かわいい顔のカワノくん。笑って頷きながら、悟と交わした会話を思い出しました。 「そうだな~。もし、俺と楓が別れることになったとして、楓が次に付き合ってもムカつかない相手っていったら、、、」 「やっぱり謙吾?」 私がそういうと、悟はムっとして、 「ありえねぇっ、っていうか、、、ありえすぎて却下」 「なにそれ~」 「謙吾はダメ、かっこよすぎるから」 「あは、悟だって、かっこいいよ」 「はい、見え透いたお世辞も却下」 私がくすくす笑うと、悟は続けて、 「そうだな~、やっぱりまずは、カワノだよな」 「え~??なんで?カワノくんだって、かっこいいよ?かわいい顔だけど、それでも微妙にかっこいい。モテるし。」 悟は、私のおでこをぺしっとたたいて、 「他の男のこと、ほめすぎ」 と怒りました。私は痛かったわけではないけれど、反射的におでこをなでながら、 「ごめんごめん。でも、悟が言い出したんじゃん」 「もしも別れたら、って、あくまでも仮定の話だろ?今、そんなにほめんなよ」 「はいはい。で、なんで、カワノくん?」 「俺と、ぜんぜん違うから」 「え?」 「顔も、もちろん、生き方も性格も全然違うだろ?だから、比べられないで済むし。だから、あんまり嫉妬しないで済む気がする」 「ふ~ん、、そんなもんかなあ?」 「ま、楓にはあんまり理解できないだろうけど」 「また、そんな。。でも、謙吾だって全然ちがくない?」 「ちがわねぇよ。いや、そりゃ、見た目はあいつほどかっこいいやつはいないけど、俺は、見た目のことはそれほど気にしてないんだよ。気にしたって、仕方ないし。ただ、謙吾は俺が楓にしてやりたいって思ってる同じことを、俺よりかっこよくやっちゃうやつだからダメなんだよ」 「ん~。。」 「カワノはさ、その点、きっと何もかも全く違うから」 考え込む私に、 「楓は?俺が付き合ってムカつかない相手って誰?」 「うんとね~、彩」 悟はふき出して、 「ばか、あいつは俺の妹だよ。変態か、俺は」 「だめ、思いつかない。。だって、別れるなんて、絶対やだし。」 悟は、優しい目で微笑んで私を抱き寄せ、 「それは俺も同じだろ?絶対離す気ないし」 たわいもない、お互いの愛情を確認するための、なんてことのない会話。こんなことも、忘れずに記憶の片隅に残っているもんなんだな、すっかり忘れてたのに、こんなに簡単によみがえるんだ、と思いました。でも、大丈夫。悟との思い出は、もう痛くはありません。胸の奥が暖かくなるだけの、懐かしい思い出。 ふと気づけば、カワノくんが不安そうに私を見つめていました。私は一瞬のつもりだったけど、随分長くぼんやりしていたみたい。 「楓、、ほんと大丈夫?」 もう一度、聞かれ、今度は、体勢を立て直してから、頷きました。カウンターでワインを選んでいると、いつの間にか、隣に来ていた悠斗が、 「楓、そろそろ帰ろっか?」 と言うので、仕方なくワインを置いて、頷きました。悠斗、明日早いんだし、そうしよう。 「なんだ、もう帰っちゃうの?残念だな」 と、カワノくん。 みんなに挨拶してから、外に出て見上げると、やっと雲が薄くなり始め、小さな星明りがところどころに顔をだしていました。悠斗は、私と手をつなぎました。 「楓、足元ふらふらしてるから。手くらい握ってもいいだろ?」 なぜか少しぶっきらぼうに言う悠斗。私は自分もしっかりと、握り返しました。暖かい、大きな手。離したくないと、離されたくないと、強く願ってしまう自分がいました。 帰り道、車を走らせながら、悠斗は、 「ったく、今日は、飲みすぎだよ。ふらついて、他の男に抱きつくなんて、言語道断だぜ」 とぶつぶつ。そっか、さっきのこと怒ってるんだ。私は、確かに、1回醒めたからって、また飲みすぎたな~と思いながら、酔ってぼんやりと麻痺した意識の中、ハンドルを真剣な顔で握る悠斗の横顔を眺めていました。もちろん、一部分覚醒した意識では、彼との間に残された時間の短さを思いながら。 ← 1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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