|
カテゴリ:lovesick
私は、フジシマくんの言葉に、ぽつんと頷き、ジャケットを羽織って、外に出ました。朝のきりりと冷えた空気が気持ちいい。門の方へ向かう私を、フジシマくんが呼び止めます。
「おい、楓、お前、寝てないんだから、あんまり遠くに行くんじゃないぞ」 私は、振り返って、大丈夫、と微笑み、ため息をつくフジシマくんを後に、門を開けて外に出ました。 ジャケットのポケットに手を入れて、歩き出すと、足は自然に川に向かいます。私は、よく晴れた空を見上げてから、ゆっくりと足元に視線を落として、歩きながら、謙吾のことを考えました。 謙吾が今も私を・・・?本当にそうなの? 謙吾と知り合ったのは、もう10年近く前のことでした。悟のクラスに転入してきたときから、そのかっこよさは、あっという間に町中に広まって、みんなが噂していました。私は、とにかく悟のことが大好きだったから、他の男の子には興味がなく、みんなのように、わざわざ見に行ったりはしなかったけれど、悟と宗太郎と仲良くなった謙吾と、時々会うようになりました。謙吾はもちろん、かっこよかったし、優しかったし、素敵な人だったけれど、恋愛という意味では、私の心が揺れることはありませんでした。いつも、私の中のその部分では、何も迷うことがないほど、悟からの愛と悟への愛で確実に満たされていたから。 謙吾の私への気持ちに気づいたのは、一体いつだっただろう。。気がつけば、ずっと、静かに、私を見ていてくれました。悟も、きっとその気持ちを知っていて・・・。悟はどんな気持ちでいたんだろう。悟が、本気でやきもちを妬いていた、ただ1人の人。と、同時に、私とデートすることを許した、ただ1人の人。いつか、自分の次の人って話をしたときは、『謙吾はありえすぎて却下』って言ってたけど。。本当は、悟、自分が私のそばにいられなくなったら、謙吾に私を、、と思っていたのかもしれないな、と思いました。 時が過ぎて、ますます素敵になっていった謙吾。あのことがあってから、謙吾が私を見ることはなくても、私は、謙吾を行く先々で見かけました。書店やコンビニの雑誌売り場、映画館の看板、電車の吊り広告、テレビのCM、テレビドラマ、、ろくに社会と関わってこなかった私の人生の中でも、あちらこちらに姿を見せてきていた謙吾。その姿を見る度に、申し訳ない思いと、それでも、いつもトップで活躍する姿に、ほっとしたりもしました。 川に着いて、私はいつものように堤防に座りました。そして、朝日に眩しく光る川面を見ながら、ついこの間、ここで一緒に川を眺めた悠斗のことを思いました。出会ってすぐからの悠斗の私への愛情を思いました。そして、夕べの悠斗の気持ち、、私と謙吾のことを知り、その上で、愛してると言ってくれたのに、、、そこに謙吾のメールが。。。悠斗、ねえ、今は、どんな気持ちでいるの? 私は携帯を取り出しました。いつもなら、撮影の合間に送ってくれるメールも今日はありませんでした。きっと悠斗も今、辛い気持ちでいるんだよね。だけど、、私はやっぱり悠斗と。。いたいんだけど、、な。。悠斗と会えなくなるなんて、、私の人生から悠斗が消えてしまうなんて、、辛すぎる。ずっと、その優しい目で、私を見ていて欲しいのに。私を守って欲しいのに。 そう考えて、やっぱり、悠斗への愛情が自分の中にしっかりとあるんだと思いました。 でも、謙吾のことも。。悟と同じように、、私に、何年もずっと変わらない愛情をくれていた謙吾。それは悟と違い、ひた隠しにし、抑え続けるだけの愛情。いつも、一歩ひいたところから、私を見守ってくれていたのです。私は、そんな謙吾の愛情をあんなふうに利用したのに。。それでも?それでも、謙吾は、本当にまだ、私を?謙吾、私、ずっと、謙吾に辛い思いをさせてきたよね。だとしたら、、今度こそきちんと、応えないといけない。。ねえ、私、どうしたら、、いい? 謙吾へのその想いが、愛なのか、私には、はっきりと見定められませんでした。 私の心は、、揺れ、、てる、、の? ← 1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|