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カテゴリ:takasaki
僕が莉花への想いを封印してから、数ヶ月が過ぎ、その日は訪れた。
「柚子ちゃん」 病室に入った莉花が声をかけると、手の甲から点滴を入れられながら、ベッドに寝転び、天井を見ていた柚子は嬉しそうにこちらを向いたが、そばに僕がいるのを見て、顔を曇らせる。それでも、僕を無視することで気持ちを立て直そうとしたらしい。莉花にだけニッコリ笑って、 「莉花さん。お見舞いにきてくれたの?」 莉花は、微笑んで、自分のバッグを持ち上げて首を振り、 「私も入院」 柚子は嬉しそうに、 「この部屋?」 そこは2人部屋、ひとつは空いていた。 「ええ。先生の配慮で」 僕には全く反応せず、 「そうなんだ~。嬉しいな。あ、でも、、調子悪いの?」 「ううん、検査だって。ユウコちゃんは、、、具合悪そうね」 柚子の顔色を見てとり、眉をひそめていう莉花。 「そんなことないよ、全っ然、平気なのに。大げさなの、主治医が」 主治医、という言葉だけ、いやらしい感じで吐き出すように言って、あっちを向く柚子。莉花は、こちらを向いて、 「先生、に、随分、怒ってるみたいですけど・・・?」 「だって、退院させてくれないんだもん。意地悪っ」 背中のままでいう柚子に、僕は、 「させられるわけないだろう?意地悪で言ってるんじゃない。どんな状態で運ばれてきたと思ってるんだ。生きてるのが不思議なくらいだよ」 「そんなに?」 驚く莉花に、 「別に大したことなかったもん」 と、また、こちらを向く柚子。 「よくいうよ、僕だって生きた心地がしなかったんだぞ?」 「別に、何もしてないじゃない」 僕は、あきれて、 「何もしてない?よくそんなこと言えるな。澤田さんに説明してみろよ、君がいったいどうして倒れることになったのか」 柚子が危険な状態から脱するまで、処置を施しながら、本当に息が止まりそうなくらい心配していた僕は、やっと病室に帰れるほど回復したことで、ほっとした分、腹を立てていた。柚子は口を尖らせて答える。 「別に、、松山くんに告白しようと思ったら、道の途中で倒れただけだよ」 「告白?柚子ちゃんから?でもそれだけで、倒れるほどドキドキしちゃったの?」 という莉花に、僕は横から割り込む。 「それだけなら、問題ないんだよ。ただ告白のドキドキってだけならね」 「だけじゃないの、ユウコちゃん?」 柚子は伏目がちになって、つぶやく。 「ちょっと、ここのとこ、窯にこもってたの。だから、少し体調悪くて。。」 「ちょっと?この1ヶ月、ずっと窯にこもっていたんだろ?。だから、ロクに眠っていないんだ。ロクに飲みも、食べもしていないんだよな?」 唇を更に尖らせる柚子に、莉花が、 「それから?」 「ちょっと徹夜して。。」 「そう、そして、2日も徹夜して、ラブレターを書いた。寝不足のまま2晩、徹夜でだよな?」 「それから?」 「走ってたら、道で倒れたの」 「・・・徹夜そのまま、坂道を走って学校まで行こうとして、その途中で倒れたんだ。死にたいのかって、100回くらい、怒鳴ってやりたいところだよ」 できるだけ、冷静に言ったつもりだが、そうは聞こえなかったらしく、莉花が、仲裁役のように、僕の腕にそっと触れ、気持ちをなだめさせる。僕がふうっと、息を吐き、気持ちを整えるのを見ると、莉花は、今度は、柚子のベッドサイドに近づき、 「どうしてそんな無茶を?」 柚子は、すぐには答えない。その様子に、僕は納まらずにいう。 「いつものことなんだよ」 「違うもんっ」 「違うって何が?それにしたって、今回のはひどすぎる。健康な人間だってそんなことしたら、倒れるよ。僕がどれだけ注意したって聞く気なんてないんだよ、な?」 「先生」 莉花の穏やかにたしなめる声に、僕は、少し控える。 「ユウコちゃん、どうして?」 優しく問いかける莉花に、柚子は、泣きそうな声で、 「松山くん、引越しちゃうんだって、だから、私。。。何か記念になるものを渡したかったの。手紙だって、ちゃんと書いて渡したかったの」 引越、、?そうだったのか。黙って驚く僕。莉花は、そんな僕を見てから、柚子に、優しく微笑んで、 「そうなんだ。そこまでする理由があったわけね」 「そうだよ。。先生は、怒ってばっかりで何も聞いてくれないんだも・・」 拗ねたような柚子。莉花は、 「先生は、柚子ちゃんのことが、大切だから怒ってるのよ?・・それで、、、渡せたの?」 柚子は首を振って、サイドテーブルの上を指差す。そこには、少し泥で汚れた、小さな袋があった。 「渡す前に倒れちゃって。。」 「そうなの。可哀想に」 柚子は僕に向かって、 「先生、ね、松山くん、行っちゃうんだよ・・・。渡したら、すぐに戻ってくるから、だから、せめて外出許可頂戴?」 懇願するように言う。そうと聞けば、渡させてやりたい。だけど、残念ながら、今の状態ではそんなこと、許せるはずもない。 「だめだよ。絶対安静。・・僕が届けてあげようか?」 僕の言葉に、柚子は、がっかりと、 「人に頼めることじゃないもん・・」 ポツリつぶやき、布団にもぐってしまった。僕は、ため息をつく。僕だってなんとかしてあげたいけれど、こればかりは、仕方ないよ、ユウコちゃん。 莉花と2人やるせなく、目を合わせていると、ノックの音がした。 ←1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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