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2008.07.02
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カテゴリ:takasaki
僕が莉花への想いを封印してから、数ヶ月が過ぎ、その日は訪れた。

「柚子ちゃん」
病室に入った莉花が声をかけると、手の甲から点滴を入れられながら、ベッドに寝転び、天井を見ていた柚子は嬉しそうにこちらを向いたが、そばに僕がいるのを見て、顔を曇らせる。それでも、僕を無視することで気持ちを立て直そうとしたらしい。莉花にだけニッコリ笑って、
「莉花さん。お見舞いにきてくれたの?」
莉花は、微笑んで、自分のバッグを持ち上げて首を振り、
「私も入院」
柚子は嬉しそうに、
「この部屋?」
そこは2人部屋、ひとつは空いていた。
「ええ。先生の配慮で」
僕には全く反応せず、
「そうなんだ~。嬉しいな。あ、でも、、調子悪いの?」
「ううん、検査だって。ユウコちゃんは、、、具合悪そうね」
柚子の顔色を見てとり、眉をひそめていう莉花。
「そんなことないよ、全っ然、平気なのに。大げさなの、主治医が」
主治医、という言葉だけ、いやらしい感じで吐き出すように言って、あっちを向く柚子。莉花は、こちらを向いて、
「先生、に、随分、怒ってるみたいですけど・・・?」
「だって、退院させてくれないんだもん。意地悪っ」
背中のままでいう柚子に、僕は、
「させられるわけないだろう?意地悪で言ってるんじゃない。どんな状態で運ばれてきたと思ってるんだ。生きてるのが不思議なくらいだよ」
「そんなに?」
驚く莉花に、
「別に大したことなかったもん」
と、また、こちらを向く柚子。
「よくいうよ、僕だって生きた心地がしなかったんだぞ?」
「別に、何もしてないじゃない」
僕は、あきれて、
「何もしてない?よくそんなこと言えるな。澤田さんに説明してみろよ、君がいったいどうして倒れることになったのか」
柚子が危険な状態から脱するまで、処置を施しながら、本当に息が止まりそうなくらい心配していた僕は、やっと病室に帰れるほど回復したことで、ほっとした分、腹を立てていた。柚子は口を尖らせて答える。
「別に、、松山くんに告白しようと思ったら、道の途中で倒れただけだよ」
「告白?柚子ちゃんから?でもそれだけで、倒れるほどドキドキしちゃったの?」
という莉花に、僕は横から割り込む。
「それだけなら、問題ないんだよ。ただ告白のドキドキってだけならね」
「だけじゃないの、ユウコちゃん?」
柚子は伏目がちになって、つぶやく。
「ちょっと、ここのとこ、窯にこもってたの。だから、少し体調悪くて。。」
「ちょっと?この1ヶ月、ずっと窯にこもっていたんだろ?。だから、ロクに眠っていないんだ。ロクに飲みも、食べもしていないんだよな?」
唇を更に尖らせる柚子に、莉花が、
「それから?」
「ちょっと徹夜して。。」
「そう、そして、2日も徹夜して、ラブレターを書いた。寝不足のまま2晩、徹夜でだよな?」
「それから?」
「走ってたら、道で倒れたの」
「・・・徹夜そのまま、坂道を走って学校まで行こうとして、その途中で倒れたんだ。死にたいのかって、100回くらい、怒鳴ってやりたいところだよ」
できるだけ、冷静に言ったつもりだが、そうは聞こえなかったらしく、莉花が、仲裁役のように、僕の腕にそっと触れ、気持ちをなだめさせる。僕がふうっと、息を吐き、気持ちを整えるのを見ると、莉花は、今度は、柚子のベッドサイドに近づき、
「どうしてそんな無茶を?」
柚子は、すぐには答えない。その様子に、僕は納まらずにいう。
「いつものことなんだよ」
「違うもんっ」
「違うって何が?それにしたって、今回のはひどすぎる。健康な人間だってそんなことしたら、倒れるよ。僕がどれだけ注意したって聞く気なんてないんだよ、な?」
「先生」
莉花の穏やかにたしなめる声に、僕は、少し控える。
「ユウコちゃん、どうして?」
優しく問いかける莉花に、柚子は、泣きそうな声で、
「松山くん、引越しちゃうんだって、だから、私。。。何か記念になるものを渡したかったの。手紙だって、ちゃんと書いて渡したかったの」
引越、、?そうだったのか。黙って驚く僕。莉花は、そんな僕を見てから、柚子に、優しく微笑んで、
「そうなんだ。そこまでする理由があったわけね」
「そうだよ。。先生は、怒ってばっかりで何も聞いてくれないんだも・・」
拗ねたような柚子。莉花は、
「先生は、柚子ちゃんのことが、大切だから怒ってるのよ?・・それで、、、渡せたの?」
柚子は首を振って、サイドテーブルの上を指差す。そこには、少し泥で汚れた、小さな袋があった。
「渡す前に倒れちゃって。。」
「そうなの。可哀想に」
柚子は僕に向かって、
「先生、ね、松山くん、行っちゃうんだよ・・・。渡したら、すぐに戻ってくるから、だから、せめて外出許可頂戴?」
懇願するように言う。そうと聞けば、渡させてやりたい。だけど、残念ながら、今の状態ではそんなこと、許せるはずもない。
「だめだよ。絶対安静。・・僕が届けてあげようか?」
僕の言葉に、柚子は、がっかりと、
「人に頼めることじゃないもん・・」
ポツリつぶやき、布団にもぐってしまった。僕は、ため息をつく。僕だってなんとかしてあげたいけれど、こればかりは、仕方ないよ、ユウコちゃん。

莉花と2人やるせなく、目を合わせていると、ノックの音がした。


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最終更新日  2008.07.02 05:46:47
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