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カテゴリ:blue night
「お待たせ」
シャワーから出てきた碓氷は、ソファに座った蒼夜に声をかけた。 「全然」 あっけらかんとした口調で答える蒼夜。・・・うまく、いくよね?心の中では自分に問いかけながら。 「なんか飲む?」 冷蔵庫を開けながら言う碓氷に、 「私はいいわ」 ただ、そっけなく返す。期待と不安に壊れそうな胸を抱えながら。 「そ?」 ビールを取り出した碓氷は、蒼夜の向かいに座り、グラスに注いで一口飲んでから、 「これ少し飲んだら」 グラスを差し出しいう碓氷に、蒼夜は横顔を見せたまま首を振る。 「・・・蒼夜ちゃん」 改まった声で名を呼ばれ向き直った蒼夜を見つめ、碓氷は言う。 「嫌なら、やめてもいいよ?」 そんなことを言う碓氷に驚く蒼夜。 「嫌じゃなんか」 そう、嫌じゃなんか、、あるはずがない。目の前にいる、風呂上りにローブだけをまとった碓氷はとても男っぽくて、乾ききらない髪も、ソファに座るまでの身のこなしも、、、全部、もう蒼夜には直視できないくらい、ドキドキするものだった。 「本当に?」 「ええ。」 蒼夜は答えてから、悪戯っぽく笑い、 「もしかして、怖気づいたんですか?母のこと思い出して??」 碓氷は心外そうに、 「まさか。君が少し、ナイーブになってるように見えたから」 鋭いっ。蒼夜は一瞬目を閉じ、すぐに碓氷を睨んで言う。 「そりゃ、少しくらいは。私のH歴は碓氷くんとは、年季が全然違います。それに女の子だもん。少しくらいは、、緊張しますよ」 碓氷は優しい微笑を浮かべて、 「はいはい。それは大変失礼しました」 蒼夜はにっこり笑い返す。でも、それが限界だった。席をたち、先にベッドにもぐりこんだ。彼に惹かれる、顔を、目を見られたく、、ない。ばれちゃうよ。心もち布団に深く潜り、小さく深呼吸を繰り返す。 蒼夜の動きをじっと見守っていた碓氷は、グラスに残ったビールを飲み干すと、ルームライトを消して、ベッドサイドの明かりだけの薄暗い部屋を進み、自分もベッドに入った。 碓氷はベッドの中、そっと蒼夜に手を伸ばす。そして、そのあまりの硬さに、尋ねる。 「初めて、、なの?」 「まさか、どうして?」 「なんか緊張してない?」 蒼夜は口を尖らせて、 「だから、緊張くらいしますってば。初めてじゃないことは、したら、分かります。」 ったく、人の気も知らないで。。さっさとはじめてくれればいいのに。。蒼夜はそっと目を閉じる。 大好きな人に抱かれるんだ。大好きじゃないフリをして。 変な気持ち。どう、、感じればいいの?そっと自分の腰に添えられた碓氷の温かい手。もう、それだけで、ドキドキが最高潮になっているのに。 「そうでした。失礼失礼。」 碓氷は軽く受けながら、目を閉じてしまった蒼夜を見つめる。軽く震えるまつげ。唇。本当に緊張しているらしい蒼夜に覆いかぶさり、そっと前髪をかきあげてやる。緊張を解くように、そっとまぶたに、頬に、耳に、そして、唇にやわらかく口付ける。 首筋に唇を移す前に、耳元に静かに問いかける。 「何かリクエストはある?」 蒼夜はささやくように答える。 「名前・・」 「名前?」 「そう、名前、たくさん呼んで」 碓氷は、すぐに意図を解し、 「了解。・・蒼夜」 と囁いて始める。 ・・本当の名前を名乗った私で抱かれるのは初めてだから。 ねえ、碓氷君、あなたがくれた大切な名前。最初で最後だけど。。。 だから、今夜だけは、その声で、いっぱい聞かせて。 やさしく囁かれる、自分の名前の響きに、碓氷の声に、そして、もちろん、碓氷の動きに抗うすべもなく溺れていく蒼夜だった。 ←1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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