2009/08/26(水)00:10
translucent 16
今日、新谷先生とは、お昼過ぎに駅で待ち合わせた。
父の誕生日が近いから、何かプレゼントを選ぶのに付き合ってほしいと言われたんだ。
「先日は、僕の誕生日を祝ってもらいましたからね。」
電車で隣に座って、そういう新谷先生。ドタキャンで、私と二人だけでディナーになった、あの日のことだ。
「先生のことはミリさんにお伺いするのが一番早いと思いまして」
「あんなドタキャン親父にお礼なんていいのに」
「いえ、あの日は楽しかったです、本当に。・・でも、すいません。わざわざ付き合ってもらってしまって」
「いいんですよ~。暇だし、ショッピング大好きだから」
「彼、、は怒りませんか?」
私は首を振って、
「ケースケはここのとこ、ずーっと仕事忙しくて、ショッピングなんて全然。デートどころか、一緒に住んでいるのに、ほとんど会えてないくらい、なんです。ほったらかし、ばっかりで。だからちょっとくらい新谷先生と出かけたからって、怒る権利なんてないですよ~」
「じゃあ、今日のことは、彼には、、、秘密、なんですか?」
「ですね、今のとこは。だって、昨日の夜お電話いただいて決まったでしょ?夕べも今朝も会わなかったし、話す時がなかったです。ていっても、次に顔をあわせたら話しますけどね。でも、、今日も遅くなるって言ってたし、それもいつになることか」
新谷先生は、
「彼、そんなに忙しいんですか。・・ミリさん、寂しいですね。」
撮影で、朝早くても夜遅くても、何日も何日も会えなくても、ケースケの仕事なんだから理解しなくちゃと、いつも心の隅っこにおいてある、「寂しい」っていう感情に、思いがけず新谷先生のあったかい光を当てられたような気持ちになり、ちょっと、涙が出そうになってしまう。そうだよね。。いまさらながら、そこにある感情に目をむけてしまうと、、ほんとに、寂しい。
表情の明度を落とした私に気づいた新谷先生が、気を引きたてるように、
「だったら、夕食、お誘いしてもいいですか?お礼にアリタリア、どうです?実は、どうかなって思いながら、今夜の予約入れてあるんですが」
といってくれた声に我に返った私。
「わっ。いいんですか?嬉しい~。じゃあ頑張って選びますね」
いくつかショップを見て周り、プレゼント選びはスムーズに無事、終了。
アリタリアは遅めの時間に予約してくれてあるってことで、
まだ早いから、お茶をしようと入ったお店。
そこで、悠斗君からのメールを受け取った。
・・・ナンパって??
こっちはケースケが仕事だって思って、寂しいのガマンしてるのに。
今日はパーティがあるって言ってたから、きっとそこで女の子と。。
許せないっ!!
だから、ケースケに、ばっちり怒りメールを送って、着信拒否リストにいれてやったもんっ。
ほんとは分かってた。
ナンパ、、なんて、きっと、、何かの間違いで、、
ケースケは、たくさん言い訳したいだろうけど、
メールや、電話で簡単にそんなこと、
ぜーったい、許してあげないつもりだった。
「どうしました?」
新谷先生に言われて、息を吐き出す。みっともなくて、説明する気には、、なれないな。。
「なんでも、ないです。それより、その病気の話、もう少し詳しく聞かせてください」
「熱心ですね」
「ええ。私にも、遺伝するかもって、父に言われてるんですけど、ただそれだけで、病状なんかのこと、あまり詳しくは教えてくれないんです」
新谷先生は、優しい目で私を見て、
「高崎先生は、きっと、あくまでも、『かも』のうちは、ミリさんに余計な不安を抱かせないように、と思っていらっしゃるんでしょう。だったら僕も、あまり言わない方がよさそうだ」
私は、バッグから小さなカードケースを取り出し、その中にあるパウチされたカードを出した。新谷先生に渡して、
「父は、この症状が全部そろったら、とにかく、言えって、それだけで」
新谷先生は、箇条書きにされた症状に目を通し、うなずく。
「なるほど。。簡潔、かつ必要十分ですね」
そして真剣な目で私を見る。
「・・・今、何か当てはまるものはありますか?」
私はカードを受け取り、首を振る。
「いいえ」
「ひとつも?」
「はい」
「なら、よかった」
満足そうにうなずく先生。
・・・ほんとはね、、ひとつふたつ、もしかして、って思うことはあるよ。でも、お父さんが心配するから、全部、、本当に、全部、になるまでは言わないつもり。全部そろわない限り、大丈夫らしいし。第一、私が病気、、なんて、そんなこと、まずないもんね。め~っちゃ元気だし。お酒もごはんもおいしいし。胸の痛みなんて全然ないし。
新谷先生も、
「まあ、遺伝といっても、確率はそれほど高くないですからね。それに、万一のことがあっても、今は手術ができますから」
「手術のこと、特に、先生には、父も随分期待してるみたいですよ。」
新谷先生は照れたように微笑んで、
「期待に応えられるようがんばりますよ、それに」
言ってから、まじめな顔になる。
「?」
「もしも、、、ミリさんが、そうなったときには、僕が必ず助けますから」
力強い言葉。オトナのオトコのヒトに、しっかりと見つめられて、こんなコト言われて、不覚にも胸がドキドキする。
バカだな、私って。
ただ、病気の話をしてるだけなのに。
まるで、告白されたみたいに胸がときめくなんて。
先生は、私がお父さんの娘だから、そういってくれてるのにね。
それに、ケースケにも、、悪いや。
他のオトコの人に、っていうか、よりによってケースケがなぜか気に入らないらしい、新谷先生に。
ケースケのこと、怒れる立場じゃないや。
ゴメンね、ケースケ、と、小さく思う。
帰ったら、早めに許してあげよっと。
それにしても、この病気。
Hが2週間に1回だけしかダメなんて、ケースケには絶対耐えられそうにもないな。。。
な~んて思っていたら、いつのまにか隣のテーブルに座っていたヒトから声をかけられた。
「ねえ、・・お久しぶり、じゃない?」
って。そちらを向き、そのショートヘアの人の顔をしっかりとみて、あ、、っと思った私だった。
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