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外に出て、僕は空を見上げた。
衝撃が大きすぎて、すぐに歩き出すこともできず、壁にもたれて。 今夜は月がきれいだ。こんな明るい場所でもくっきりと。星は、ここではほとんど見えないけれど。 『初めまして~。楓です。いつも悠斗がお世・・』 ケータイ電話から流れてきた声。 息が止まりそうになった。 いや、実際、ちょっと固まっちゃったし。 もう20年以上も前のことなのに。 もうすっかり忘れていたはずなのに。 その声は、彼女にあまりにも似すぎていた。 声まで、未だに覚えていた自分の深層に驚く。 ・・・ユウコ。 目を閉じて、ユウコを思う。 たった3ヶ月だけの恋人。 それから、ずっとずっと胸の真ん中にいた恋人。 歩き出した足は、その場所に自然に向かってしまう。 久しぶりに。 『私は、もう2度と会うつもりないわ。さようなら』 ユウコの最後の言葉。 何度、反芻しただろう。 その言葉通り、本当に会えていない。 もしかしたら、どこかで会えるかも、なんて、 道を歩くたびに、思っていたときもあったっけ。 見合いをして、結婚する、なんて言ってたユウコ。 そんなこと、信じられなかったけれど。 でも、どこかで、幸せになっていてくれれば。 ・・・それでいいんだと。。。 ・・思えてるのかな、、僕。。。いや、まだ。。? そんな僕の心の揺れを察知したかのように、 ポケットの中で震えるケータイ。 取り出すと、蒼夜からのメールだった。 蒼夜→碓氷 : まだ飲んでるの~?ほどほどにネ。私はもう、寝ますヨー。おやすみなさい。大好き^^。 ソヨ。 蒼夜。 今の僕には、蒼夜がいる。 ユウコと別れて以来、誰も愛せなかった僕の胸に、新しい風を送り込んでくれる蒼夜。 ふっと笑みが漏れる。 ただ似た声を聞いただけで、緊張し、強張ってしまっていた心がほどけていく。 ユウコとのことは、過去になったはずだった。 そう、蒼夜に出会ったことで。 もう、振り返るわけには行かない。 蒼夜を悲しませることなんて、望んでないんだから。 ただ、似た声を聞いただけで。 感傷的になってる場合じゃない。 僕には、守るものがある。 僕は、足を止め、もう一度空を見上げる。 そして、タクシーを拾う。 うん、それでいい。 僕は自分に思う。 あの場所には行かない。 タクシーに乗り込み、行き先を告げて、ケータイのキーを押した。 ←1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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