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「碓氷さんだよ。夕べ楓も電話で話したろ?あの碓氷さん。」
俺がそういうと、 「うんうん。そっか。。そうだよね。碓氷さんてテツヤって名前だったね、たしか」 と、うなずく楓。俺は、稽古中に碓氷さんから聞いたことを伝える。 「今度、俺が演じる役を初演のこの時は、まだ全然無名だった頃の碓氷さんがやったんだ。たしか初めて主演をしたって。この主演がきっかけで、テレビの方から声がかかったって言ってた。つまり、碓氷さんの原点なんだよ。この作品は」 「そうなんだ~。すご~い。、、その作品をお母さんが観て、私、、その主演だった人と夕べ話したってことなんだね~」 「そういうことだな。」 20年以上もの時を超えてつながれるこんな細い糸のような出来事。軽く時空を超えたような感覚に、俺たちは少し黙る。何かを考えている様子の楓に、俺は聞く。 「何か聞いて参考になることがあるなら、俺、碓氷さんになら明日も会うし、聞いてあげるよ?」 俺の言葉に、楓は、 「ありがと~」 と柔らかく微笑んでから、少し、首をかしげて言う。 「・・・でも、いったい何を聞いたらいいのか。。ごめん、私、、ちょっとびっくりして、、なんか、、動揺してる」 俺はうなずく。 「仕方ないよ。」 「・・だってね、こんなに早く、こんなカタチで、このチラシの出所が分かるなんて思ってなかったから。」 「うん」 「だから、、まだ、分かった後どうしようなんて、、全然考えてなかった。チラシとお父さんがどう結びつくかってことも。。」 戸惑ったように微笑む楓。そのあいまいな笑顔、めちゃくちゃ可愛いよ。また抱きしめたくなって、そっと手を伸ばしかける俺に、楓は、静かに聞く。 「、、、ねえ、これってどんなお話なの?」 「それって、お父さん探しと関係ある?」 聞きながら、俺は、楓を後ろから抱えるようにそっと抱きしめる。 「え~、、どうかしら・・?」 少し抵抗するように身をよじる楓のうなじにそっと唇を添えながら言う。 「・・・ネタバレになるから言わないよ。内緒。見てのお楽しみ。」 くすぐったそうに首をすくめながらも、それ以上は抵抗せず、 「。。内緒、、かぁ・・」 残念そうに言う楓に、俺は慌てて、 「イジワルいってんじゃないよ?壮大な世界観で展開する作品だから、とても一言では説明できないんだ」 楓は肩越しに抱く俺の腕にそっと手を添えてもたれかかるようにしながら、 「分かったわ。観るの楽しみにしてる」 と、もう一度チケットを見た。俺は言う。 「席はミリちゃんの隣だよ。あと、宗太郎と彩も多分その日に来るから」 「そうなんだ、勢ぞろいだね。・・ねえ、悠斗、私、ほんとにすっごく楽しみ~」 「・・芝居が、だよな?」 ためらいがちにたずねる俺に、 「どういう意味?」 「みんなに会うこと、、じゃなくて?」 楓は笑って、 「もちろんよ。またカッコイイ悠斗を見れるんだもん」 「カッコイイ?」 「そうよ。お芝居で役に入り込んでる悠斗見るの、すごく好き。かっこよすぎて、くらくらしちゃう」 心底嬉しい俺。 「ありがと。」 って、楓をまた抱き寄せて、でも、と思う。 「じゃあ、普段は?」 楓は、体を捻るようにして、俺のほうを見上げて言う。 「普段?普段はね~」 「うん」 「かわいいな~って思ってるよ」 かわいい?がっくりくるよ。 「かわいいってなんだよ~?」 口を尖らせる俺に、 「だって可愛いもん。そうやってすぐにすねるとこ。すぐにヤキモチやくとこも」 俺は口を元に戻す。くすくす笑う楓。ちぇーっ。なんだよ~。。どうせならかっこいいって思われたいのにな~。。 「・・・それだけ?」 しょんぼり聞く俺に、 「あとはね~、とにかく大好きってずっと思ってる」 可愛くそういってくれる楓。そんなこと言われると、 「ありがと。俺もだよ」 って即効でニヤケちゃう俺。 ・・で、自分でも納得。確かに、これじゃあ、カッコイイって思ってもらうの、無理か。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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