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モニターが危険数値を察知したことを知り、僕は美莉さんの部屋に急ぐ。
あわてて彼女の病室の前に着いた、でも、鳴っているはずの警告音は止まっていて。 ・・・中からは普通に美莉さんの小さな話し声が。 ・・・まだ、電話してるのか・・?。 安定した話し声からして、やはり今のところはまだ、一時的な、発作のようだ。 ならば、話が終わってから、中に入ることにしよう。 僕はドアに背中をつけ、凭れた。 ドア越しに、だが、聞こえ続ける、美莉さんの声。 ドア越しに、だが、分かる。 それは、初めて聞く、彼女の、甘い甘い声。 僕の前ではそんな声で話すことはない。 父親である高崎先生の前でだってない。 彼女があんな声で話すのは、今の電話の相手だけ。 そう、慶介くんだけなんだ。 慶介くんと2人きりの時、だけの声なんだ。 分かりきっていたことながら、現実を目の当たりにして、僕は胸が締め付けられる。 ・・・やっぱり、彼女が愛しているのは、彼だけなんだ。 病気を理由に別れることを決めていても。 それは愛がなくなったわけでは決してなく、 いや、むしろ、深すぎる愛のための、彼女なりの決断。 『・・・ありがと、ケースケ・・』 という言葉を最後に話し声は消えた。 部屋に入らなくてはいけないのに。 彼女の状態を確かめなくてはいけないのに。 僕はドアの前で動けない。 さっき、彼女への思いの封印を解いた僕には、 どんな顔で中に入っていけばいいのかが、思いつけなかった。 動けなくなった僕に、声がかかる。 「新谷くん?」 僕はぼんやりとした表情で、そちらを見た。高崎先生だった。先生の姿を見て、慌てて医者の自分に戻る。 「はい」 高崎先生は、いつもどおりの様子のまま、僕に言う。 「ミリ、まだ電話かい?」 「・・いえ。今終わられた様子で・・。さっきモニターが・・」 「知ってるよ。まあ、一時的なものだろうけれど・・。」 言葉とは裏腹に、少し憂い顔をした高崎先生は言う。 「ちょっと娘と話したいんだ。僕が行くよ。いいかな?」 僕はその言葉にむしろ救われたような気持ちになる。ほっと心でため息をつきながら、言う。 「はい。もちろんです。ではお任せします」 頭を下げ、足早に立ち去りながら、首を振る。 ・・・こんなんじゃ、駄目だろ、僕。 もっと、しっかりしなくては。 医者としてももちろん、一人の男としても。 愛する人を守りたいなら。 ←2コクリでよろしくお願いします。いつもありがとうございます。 今日のゆる日記の方は、こちらです。バカップルにご注意ください お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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