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2010.06.17
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涼子に対して怒り沸騰の俺に、美莉は、また、作り笑顔で言う。

「って、私には、関係ないか。・・ケースケ、ほんとごめんね。今日は、、少しでも会えて嬉しかった。・・・とか言っちゃいけないか。・・・じゃあね。私、、もう、、、、」

それ以上、言葉をつなげずに、背中を向けて歩き、、いや、逃げ出そうとする美莉。

「待てよっ。違うって、美莉。」

後ろから羽交い絞めに抱きしめる。

「違うって。これは、さっき、ちょっと涼子が来てて、、、、無理矢理抱きついてきただけだよ」
「涼子さん・・・?」
俺の言葉を理解するにつれ、美莉のカラダから力が抜けていくのが分かる。強張った心が溶けていくのが分かる。俺が涼子をどう思っているかは、美莉だってよく分かっているから。
「・・ああ。ただ、それだけの話」
だから、それだけの言葉で十分理解した美莉は、
「・・・なんだ。・・・・そだったんだ。私、、てっきり」
ぽつり呟きながら、俺の腕を離し、振り返って俺を見上げ、力なく微笑んで、
「もう、、ダメなんだって・・・思って・・・」
それ以上言葉にならず、噴水の縁にコシが抜けたみたいに、腰を落とした。

『もう、、ダメなんだって・・・思って・・・』

その一言で、俺は、心から安堵する。美莉は、やっぱり俺の腕の中に戻ろうとしてくれている。そのことがはっきりと分かって。だったら。。

それ以上何も言葉にならず、涙を一粒流した美莉を、思わず抱き寄せてしまいそうになるけど、ちゃんと先に話さなくてはいけないことがある。ただ抱き寄せて、口づけて、取り戻してしまうのは簡単だけれど、その前に、美莉にしっかり思い知っておいてもらいたいことがある。

いつもなら、抱き寄せるはずのタイミングをやり過ごしたことで、美莉は、涙を自分でぬぐいながら、俺に目を向ける。

「・・・って、図々しいね、私。・・・どっちみち、もう、ダメだよね。・・・だって、ケースケ、怒ってる、・・・よね?」
「怒ってる?ああ、怒ってるよ、美莉」
怒った俺の声色に、しょげたようにうつむく美莉。その哀しげな様子に、思わず手を伸ばしそうになるけれど、俺は思いとどまる。

・・・美莉。確かに今、俺の中には、愛しい気持ちと同じくらいの、怒りがある。

それをしっかりと美莉には伝えておかなくてはならない。
だって、美莉はそれだけのことをしたんだから。
だから、俺は、今回は初めから、美莉への怒りの気持ちを先行させるつもりだったんだ

うつむいたままの美莉に、俺は聞く。

「・・・なあ、美莉、俺が何を怒ってるのか、お前、分かってる?」
少し考えた後、小さな声で、
「いっぱい、、嘘ついたこと・・・?」
そんな風に問いかけるように答える美莉。俺は言う。
「ああ。そうだな。嘘ついたこと、怒ってるよ。嘘ついて俺から一番大事なもの奪いやがって。」
「一番、大事なもの・・・?」
ぼんやりと、ポツリ呟いた美莉に俺は言う。
「なあ、美莉。俺、実際、夕べ美莉の父さんから、病気のこと聞かされたとき、辛かったし苦しかったよ。そして、それは、今もずっと、だよ」
そう言うと、美莉は、また、伏目がちになり、言う。
「でしょ?Hも時々しかできない、子供も産めないかもしれない。そんなオンナ抱え込むのやでしょ?子供もたくさん欲しいんでしょ?・・・だから、、、私、、決めたの。別れようって。・・・だから、もう、このまま別れたままでいようよ。私のことなんて忘れて?」
まだそんなこと口にする美莉に、俺は言い返す。
「やだね。美莉、俺が辛い苦しいって言ってるのはそんな意味じゃないことくらい美莉にだって分かってるんだろ?」
「・・・」
何も答えない美莉に俺は言う。
「俺がつらくて苦しいのは、Hのことや、子供のコトなんかじゃない。美莉が、そのことや、病気のことで辛い思いをすることだよ。そして、俺が一番、辛かったのは、美莉をあんな風に失ったことだよ。・・・美莉が、人生最大に辛い思いをして、その上で、俺にまで嘘をついて俺と別れて。そして、そんな苦しみや、辛さに全然気づけずに、別れてしまった俺の情けなさがほんとに悔しいよ。」
俺のことを、ゆっくりと見上げる美莉。俺は続ける。
「美莉、お前、俺を苦しめて、苦しむのがやなんだって、言ってたらしいな?俺が苦しむのを見て苦しみたくないって?・・そんな理由で逃がさないぞ、美莉。・・・ちゃんと苦しめよ。俺、辛い美莉をすぐそばで見ながらちゃんと苦しんで、美莉のこと苦しめてやる。」
目を閉じる美莉。俺は続けて言う。
「・・・でも、それ以上に、愛してやるから。幸せにしてやるから。な?・・・苦しいなんて思うヒマないくらい。愛して愛して愛しまくって幸せにしてやる。幸せにすることで守ってやる。・・辛い苦しい思い全てから美莉のこと。」
「・・・・慶介」
少し顔を上げ、今にも俺に縋りつきそうになる心をまだ抑えようとする意地っ張りな美莉。俺は微笑んで続ける。
「だいたいさ、最愛の恋人が病気になったからって、さっさと捨てて、他の愛せもしない女を抱きまくって、忘れろって?そんなみっともない男に俺をさせたいわけ?」
「・・・だって・・」
何かを言おうとする美莉を制して俺は言う。
「なあ、美莉。でもな、俺が、一番許せないのは、美莉が病気を隠してたことじゃない。嘘をついたまま別れ話をしたことでもない。・・・幸せになれるって言ったことだ。」

クチビルを噛んで、涙を堪える美莉。でも、涙はポツリとまた一粒その瞳から溢れる。

「幸せになれる。って言ったよな?でも、・・・それも嘘だったよな?それとも、・・・幸せになれるって思ってたのか?本当に、俺、なしで?」

目を閉じ、もう一粒涙を溢れさせてから、首を振る美莉。

・・・イイコだな。美莉。素直でよろしい。俺が美莉ナシでは幸せになんてなれないように。美莉は、俺ナシでは幸せになんてなれない。そのことを心から思い知っておいて欲しい。こんな辛い思いをした証として。

俺は微笑んで、微笑み声で言う。
「ったく、なんだよ、それ。俺から、一番大切なものを、、一番大切な美莉を奪っといて幸せにもさせられないって、、お前、俺の大事な美莉のこと、なんだと思ってんだ?」
美莉自身に『美莉のこと』、そう尋ねる俺に、美莉は、俺を見上げる。
その瞳には、もう、怒ってなどいない、ただ、愛だけを与える俺の目が映りこんでいるはずで。
ゆっくりと美莉が瞬き、俺の想いが美莉の心に染み渡っていく。
次に目を開いたときには、美莉の心は、もう、抵抗を止めている。
美莉は、涙にうるんだ瞳のまま、頬を緩める。
「美莉のことって。。。私が私をどうしようと、勝手でしょ?」
微笑んだ声、減らず口の戻った美莉を、しっかりと見つめ返して俺は言う。

「いいや。俺の一番大事な宝物、そんなにぞんざいに扱うなんて、許せねー。返してもらうぞ?」

そういって、座ったままの美莉の背中に手をかけて、立ち上がらせ抱き寄せた。

・・ら、、あ、そ。また、ニオイ嗅いじゃうわけか・・。

俺は、一度美莉を離して顔を覗いてみる。口を尖らせ拗ねたような表情をしているけれど、いたずらな光を孕んだその瞳。
「・・・涼子さん、に、心、揺れなかった・・・?」
ったく、分かってるくせに、拗ね顔のまま、そんなことを聞くんだ。実質はイタズラ瞳の小悪魔顔で。つまりは、もういつもどおりの美莉の、いつもどおりの俺イジメ、が始まっている。・・こんな感動的なはずの瞬間に。
俺は、微笑んで、
「あるわけないだろ?そんなこと。分かってるくせに」
そう答えてから、これ以上何も言わせないために、子供を抱き上げるように美莉を抱き上げた。これで、美莉の顔は俺の肩の上に。
今度こそ抵抗しないで腕の中におさまる美莉。自分の腕を俺の首にまわし、首筋に顔をうずめてくる。
そして、美莉は、ゆっくりと息をつき、俺の腕の中で、まるで溶けていきそうに力を抜いていく。
美莉は、安堵していく。俺の腕の中で。
俺は腕に力を込め、しっかりと抱きしめた。
そして、そっと耳元で囁く。これしかないって、言葉を。

「・・・2度と離さないぞ、美莉」

微かに頷く美莉に、俺は、やっとほっと目を閉じた。

・・・美莉が腕の中にいる・・・。


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最終更新日  2010.06.18 00:25:30
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