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エントランスから外に出る。白々と明け始めている夜。朝の空気をお腹一杯に吸い込んだ。
「こっからどーすんだ?」 大樹が私に聞いてくる。 「ん~、おうちに帰る」 「あれ?碓氷さんちにいかねーの?」 「ん~・・・」 すぐにでも会いたい。もちろんその気持ちがなかったわけじゃない。だけど、やっぱり、他の男のヒトとホテルから出たその足で、碓氷くんに会いにいくのには抵抗があった。たとえ何もなかったとしても。 ・・・それに・・・・ 「・・・・いないかも知れないし」 ・・・いないかも知れない。ううん、それよりも。1人、では、いないかも知れない。 碓氷くんを信じ切れない思いのかけらが胸をよぎる。 「・・・そか。まあ、寝てるならこんな時間にたたき起こすのもな。それに蒼夜も、一回ぐっすり寝たほうがいいよ」 大樹は私の考える暗い思いを慎重に避けて同意してくれる。その思いやりが暖かい。 「じゃ、タクシー拾うわ。で、お前んち回ってから、俺も帰る」 「1人でへーキだよ?」 「どうせ通り道だし。気にすんな」 目一杯気にしてくれてる大樹がそんなこという。大通りに出て、タクシーを拾おうとする背中に、 ・・・ごめんね。 って呟いた。どこにもいかない想いを抱えさせてしまっている。こんな私のため、なんかに。そんなこと、思いふさぎながら、大樹に促されるまま、タクシーに乗り込んだ。少しずつ明けていく空の色。次々と朱色に染まっていくビルの窓。すべてがまぶしく色を変える。こんな都会でも、自然の大きさを感じられる一瞬。そして同時に自分のちっぽけさも。 降り際に、大樹がいう。 「あ、碓氷さんに会ったら謝っといて」 「・・・何のこと?」 たずねた私に、 「約束守れなかったから。ほら、オレ、送ってくって言ったのに。蒼夜のこと」 記憶を手繰り寄せてみると・・・楽屋では確かにそう言っていた。だけど、・・・・。 それからイロイロありすぎて、あれが、昨夜のことなんて、全部忘れてしまいそう。・・・でも。・・・大樹はきっと、その時間まで私の心を戻そうとしてくれている。そう気づいたから、私は、微笑んで、 「分かった。伝えとくね」 わざと軽く受けたんだ。 家のドアを開けると、ちょうど、水野くんが出てくるところだった。 ・・・気まずい。 でも、今日は、朝帰りのこと怒られたりしたくない。碓氷くんといなかったことも、他のオトコノコといたことも、知らないはずの水野くんに、いつもどおり、碓氷くんがらみのイヤミを言われるのは、心がもちそうになかったから、ただ眠いフリで無言で通り過ぎちゃった。水野くんの見送る視線を背中に感じる。きっと、、にわか父親であるということを気にする水野くんにまた自信を失わせちゃったことだろう。 ・・・ごめんね。 心の中でだけ謝る。今はこれでいいよね。だって、水野くんとはまたいつでも仲直りできる。だって、親子なんだから。また、いつでも機会があるだろうから。だけど・・・・。 部屋に入って、ベッドに腰掛けると、ミラーの中の自分と目が合う。なんだか自分じゃないみたい。すごく気弱に映っている。 ・・・あ~だめだめ、ほんとちゃんと寝よ。しっかり眠って美容力チャージして女子力をあげなけりゃ。 碓氷くんは今日も舞台。さすがに楽屋に顔を出す勇気はない。かといって、ケータイもないし。 ・・・ウスイくん。。。 小さくつぶやきながら、ベッドに横たわって、静かに目を閉じる。 ・・・会って話せば、ちゃんと、、、元に戻れるよね。 優しい碓氷くんを思い出した途端、私は眠りに落ちていた。 今日のゆる日記は、こちらです。バカップルにご注意ください 「box」目次1~、101~、201~(10/19更新) ふぉろみー? lovesick+も、がんばって更新中。10/18 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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