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頼まれた場所につき、碓氷さんと楓を送り出した俺は、
1人車に残り、考えていた。 ・・・・父さんが、、楓のお母さんを・・・・ どこまでも鈍いオレに与えられた最後のキーワード。『決められた婚約者』。母さんがずっと俺に囁き続けている言葉。 この間、家に帰ったとき、仕事から戻ると、瑞希が1人リビングのソファにいた。 「おかえり、おにーちゃん」 声をかけてくれながらも、目はこちらを向かずに、膝の上に何かを広げてみていた。 「ただいま」 ・・・また、最近夢中のアイドル大橋くんの写真かな。 そんなこと思いながら、コーヒーを2杯いれ向かいに座った。仕事で張り詰めたキンチョーを、仕事と関係のない瑞希と話すことでクールダウンしようと思ったんだ。 「ほれ、コーヒー。」 まだ熱心に眺めている瑞希に声をかけると、 「あ、ありがとー」 そういって、その膝の上に置いたものを閉じてソファの横に置き、カップを手に取った。何気なく目を向ける瑞希が今おいたばかりの、閉じられた白い台紙。 ・・・・もしかして。 深く考える間もなく、俺の視線を追って、瑞希がいう。 「今度は、T大の助教授のヒトだって」 ・・・やっぱり。ため息をつくヒマもなく、 「でも、残念ながら、10分くらい眺めてみたけど、顔が無理」 そんなこと言ってる瑞希。 「あのな~、お前、顔が無理じゃなければ、本気で見合いする気でいるのか?」 そう、瑞希が見ていたのは、母さんがどっからか預かってくる見合い写真だった。これまでにも何度もあったこと。見合い、なんて、俺は最初から拒否ってるが、瑞希は、 『条件が整ってる上に、お兄ちゃんくらい年上で、お兄ちゃんくらいカッコイイヒトがもしいたら会ってみてもいい』 なんて、中途半端なこというもんだから、張り切って届けてくるやつがいんだよ。今日もこうして。 「うん。私の出した条件全部クリアならあってみてもいいよ。だって、普段もそういう人探してるもん。見合いだってオナジコトでしょ?」 「・・・そんなもんかなぁ。。」 まだ16歳の瑞希。しっかりしてるのか、夢見てるのかそれにしてもわかんねー感じ。 「でもさー、私の出した条件、知った上で、こんなの届けてくるんだから、お話になんないわ」 そーいって、さっきの写真をオレに渡してくる。俺は開いてみながら、 「・・・そんな、悪くなくね?」 「おにーちゃん、おにーちゃんくらいカッコイイヒトっていったのよ、私。自己評価低すぎ。そのひと悪いけど、おにーちゃんの半分も点数上げられない」 「キビシーなー、瑞希」 「だって、私、本気でメンクイだもん。」 「ていうかさー、そんなことよりさー、見合いって、、」 「おにーちゃんは、いいよ。カッコイーから。普通に暮らしてたって、楓おねえちゃんみたいなヒトと出会えるから。でも、私なんて、そうはいかないもん」 「瑞希はじゅーぶんかわいいよ」 「ありがと。おにーちゃんは優しいよね。でも、私、自分のことはよーくわかってる」 「ま、たしかに、ちょっと鼻は低いけど。でも、かわいいレベルだよ」 「うるさいな」 気にしてる鼻のこといわれて、瑞希は頬を膨らませる。オレは笑って、 「てかさ、やっぱ、顔じゃないって、人間は」 「そーかもしれないね。そんなかっこいい顔して、楓おねえちゃんみたいにキレイな恋人がいるヒトに言われても説得力ないけどねっ。おやすみっ」 瑞希は、コーヒーカップを持って出てってしまった。 ・・・ったく、すぐすねるンだからな、アイツ。 オレは、コーヒーを飲みきるまで、しばらく、その写真と、添えられた釣書を眺めていた。しばらくそうしていると、後ろでドアが開く音、ヤバイ、と思ったら、 「あら~、悠斗、お帰り」 って、ほろ酔いの母さんだし。オレは、慌てて、立ち上がって、部屋に戻ろうとしたが、 「逃げなくてもいいじゃない」 がっしり、ソファに押し返され、つかまってしまった。 「あら、瑞希、やっぱり気に入らないって?」 瑞希が置き去りにしていった写真に気づき、母さんがいう。 「ああ、顔が無理だって」 オレがそういうと母さんは、写真を取り上げ、首を傾げて眺めてから、オレの顔を眺め、 「ま、確かに、悠斗の方が、相当かっこいいわね」 いいながら、写真をソファにおき、またカウンターにワインを取りに行く。 「でも、なかなか、学歴も家柄もよくて、顔までいいっていうのはいなくってね」 言い訳するようにそういって母さんは、オレの向かいに座る。 「悠斗、あなただって、一つ足りないものがあるのよ、分かってるわね?」 と聞いてくる。 「学歴だろ?あえて外してるんだよ。かあさんが妙な気起こさないように。」 オレはいわゆるいい大学に入学だけして休学していた。かあさんは、ふふっと笑って、 「でも、心配要らないわ。それでもいいって言ってくれてるのよ、先方は。あなたならってね。」 現在形が気になって聞き返す。 「オレ、見合いはしないよ。何度も言ってるだろ?」 「今はまだいいわよ」 「今も、未来も、しないよ。大切な人がいるんだ」 オレがそういうとかあさんは、またふふっと笑って、 「はいはい。お相手もまだまだ若いことだし、あなたも24になるまでは自由にしていなさい。それまでに学歴の方もなんとかするから」 って、全然聞いてないし。酔っ払い相手に、それ以上押し問答する気にもなれず、部屋を出たけれど。 ・・・ 『決められた婚約者』。 俺や瑞希に見合いの話をするたびに、父さんと自分も見合い(というよりは)文字通り、『決められた婚約者』だったことを語ってきた母さん。そしてそれが、どれだけ素晴らしい結婚であったかも。 その、見合いの前に、父さんが、楓のお母さんと付き合っていたなんて。そして、、母さんと結婚するために、楓のお母さんを棄てたなんて。 ・・・楓が知ったら、碓氷さんが知ったら、、、どう思うだろう。 『娘の交際相手は、しっかり吟味した方がいいぞ』 水野さんの言葉が頭をよぎる。 碓氷さんは、俺のこと、 『悠斗はボクと違って信頼できる。』 なんて言ってくれてたけど。じゃあ、交際相手の親は? いや、楓はもはや、交際相手、というだけではなく、間違いなく結婚相手という意識で俺の中にある。慶介とこの間話して、俺だって、プロポーズすること、考え始めていたのに。 そっと、視線をあげ、楓の姿を探すと、碓氷さんと2人、昔から仲のいい親子のように歩いていく背中。その背中をみて俺は思う。 ・・・いや、違う、、か。。 さっきも目の当たりにしたように、相手をありのままに受け入れる、碓氷さんと楓なら、俺が俺でいればいいんだよな。 親のことなんて、関係ないはずだ。 ・・・しっかりと、俺らしく、楓を愛して、ずっとそばにいて、支えていければ。ありのままの俺を見てくれるだろう。 もちろん、父さんとはしっかりと話す必要がある。言いたいことがいっぱいある。でも、今は、目の前にいる楓をしっかりと守っていかなくては。 『悠斗?一緒にきてくれないの?』 さっきの楓の少し不安げな声を思い出して、俺は、慌てて、2人の後を追った。 ・・・楓が、おかあさんと、おとうさんの過去に向き合う時間。そばにいてやんなくてどうすんだよ。 今日のゆる日記は、こちらです。バカップルにご注意ください 「box」目次1~、101~、201~(10/19更新) ふぉろみー? lovesick+も、がんばって更新中。10/18 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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