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2011.01.14
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カテゴリ:box
「・・・私、あの部屋には戻らない」

美莉は続ける。

「・・・退院したら、実家に帰ろうと思ってるの」

予期した言葉。でも、はっきり言葉で耳にするとやっぱり胸が痛む。傷つく。だけど、美莉だって同じように、いや、それ以上に傷ついてる。また自ら飛び込んだ深い暗い闇の底で。

・・・・待ってろよ、美莉、ちゃんと助け出してやるから。

とはいえ、美莉の言葉に、先にずっしり落ちた俺の表情に、美莉の方が慌てて反応する。

「ごめんね。・・・深い意味なんてないの。・・・ただ、その方がいいと思うの」

自分でも自信なげに呟くように言う美莉。

「深い意味がない?その方がいい?美莉がつらいときに、離れて暮らすことが?なんで?」

ゆるく問いかけた俺に、美莉は、笑って言う。無理して、笑って、なんでもないことのように、言う。

「そんなに深刻なこと?だって、どうせ、ケースケ、今までだってすっごく忙しくって、家にいる時間なんてほとんどなかったじゃない。だから、一緒に住んでたって会えないことも多かったじゃない。だから、一緒に住まなくたって、、」

『一緒に住まない』。その言葉にリアルにそのことを想像してしまうのか、美莉の顔が少しゆがむ。そうだよな、美莉。平気なわけないよ。俺は言う。

「確かに仕事は忙しくて、ゆっくり会えない日も多かった。でも、それでも、一緒に住んでいたから、夜は美莉を抱っこして眠れてた。それだけで俺は十分癒されてきた。美莉だってそうじゃないのか?離れて住んだら、顔も見られなくなるんだぞ?」
「・・・私は平気だよ」
「嘘だ」
「・・・ほんとだよ」

目をそらした美莉に、俺は言う。

「俺の目、見て言えんのか?」

美莉は恐る恐る俺の目を覗き込む。

「言えるわ。・・・・私は、平気だよ、ケースケ」

奥の奥がグラグラ揺れる瞳。揺れてろよ。揺れてすらなけりゃ、俺だって、さすがに自信がなくなるよ、美莉。俺は、美莉のその揺れる瞳を愛おしくまっすぐに見つめて言う。

「俺は、無理だよ、美莉。美莉と一緒に暮らしたい」

直球勝負した俺の言葉に、美莉のココロが揺れるのが見える。でも、それでも、美莉は・・・。ったく頑固だよな。美莉は、こんな風に続けた。

「ねえ、ケースケ、気持ちは、、嬉しいけど、、分かってる?、、帰れる回数は増えたって、2週間に1回しかできないのは変わらないのよ?シたいけどデキないのに隣で眠るよりも、できるときだけ会えるほうがいいでしょ?だから、・・・2週間に1回だけ、泊まりに行かせて?・・・他の日は、ケースケ、好きに過ごせばいいじゃない。誰に会っても、誰と何しても、・・・誰かを部屋に呼んでも、泊めても、・・・かまわないの。2週間に1回だけ、私だけのケースケになってくれたら・・」

微笑みさえ浮かべてそんなこと口にする美莉。何かを口にすればするほどバラバラになっていく美莉。でも、俺は、まだ、ただ、その肩に手を添えて、美莉が何もかも吐き出すのを見守っていた。

「2週間に1度だけ、、、あ、もちろん、ケースケがよければ、、で、、うん。・・そう、、ケースケに本当に好きなヒトが、、大切にしたいヒトができたら、2週間に1回も、あきらめる、、け、、ど・・」

美莉は、ゆっくりと瞳を閉じた。揺れる睫。震える唇。自分で言った言葉に自分で傷ついて。完全に間違った方向に進んでいる美莉の思考回路。やれやれ、何度こんな話を繰り返すつもりだよ。もちろん、何度でも付き合うけどさ。

俺はふっと笑って言う。深刻な話になんてしたくはない。

「何だよそれ。俺には、本当に好きな、大切にしたいヒトなんて、もうしっかりいるっての」

俯いたままゆっくりと目を開けた美莉。俺は続ける。

「だいたい、美莉、それってさ、俺たち、セ・フ・レ、になろうって言われてんの?ったく、大胆だな」
「セ・・・って、、」
「だって、美莉は、自分のこと、本当に好きでも大切にしたいとも思ってないと思ってる相手と、ヤル時だけ会おうって言ってるんだろ?だったら、そういうことになるじゃん」
「・・・・・そんなつもりじゃ・・・」
「なくても、そう聞こえる。・・・・美莉」
「・・・」
「やる時の俺しか興味ないの?」
「・・・そんなわけないでしょ」
「俺のこと下半身しか興味ないの?」
続けた俺の言葉に吹き出して、
「もうっ、・・・否定してるのに、表現をエスカレートさせないで」
表情を緩めた美莉に、俺は続ける。
「なー美莉、俺は、デキなくても、そばにいたい。いや、できないならなおのことそばにいたい。」
「どーして?・・・ガマンしなくちゃなんないんだよ?つらいでしょ?」
「つらいっちゃつらいかな~。でも、ガマン、するよ。会えないことガマンするよりずっとラクだよ。それに」
「?」
「美莉が、俺から離れた場所で、1人で何考えてんだろう、また、俺と別れようってばっか思ってんのかな、って、そんなバカなことばっか思って泣いてんのかな、って思うより、ずっとずっとラクだよ。だから、ガマン、できるよ。」

目を細め、いとおしく美莉を見やりながら、ゆるぎない心でそう告げた俺に、美莉は、ゆっくりと視線を向け、意外な言葉を口にした。

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最終更新日  2011.01.14 16:29:01
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