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劇場通いの芝居のはなし

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2018.08.21
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カテゴリ:オペラのはなし
天才モーツアルトの先輩たちが、「バロックオペラ」と呼ばれる時代です。この時代最大の作曲家は、同じ1865年にドイツで生まれた、バッハとヘンデルです。バッハは教会を主な仕事場とし、ヘンデルはイギリスに帰化し、劇場音楽を主に作りました。対照的な二人といえます。
「音楽の父」バッハの声楽曲としては、宗教的なカンタータ、オラトリオがありますが、オペラはありません。彼がオペラを書いていれば、劇的かつメロディを楽しむものではなく、現代オペラのような複雑な構築的な作品になっていたでしょう。
対して、「音楽の母」(日本だけの呼び方です)ヘンデルは、オラトリオ『メサイア』の「ハレルヤ・コーラス」を聞いてわかるように、声の表現を重要視したようです。彼には多数のオペラ作品があります。CDでいくつかの作品を聞いてみますと、レシタティーヴォが聞き取りやすく、台詞の気分があり、音に力強さを感じます。しかし、音楽の作りには古さを感じ、ドラマチックでもないので、オペラ劇場で全曲が上演される機会は稀です。
それでも、好ましいアリアがいくつかあり、演奏会で単独で歌われることが多いです。長い曲ではなく、激しい感情表現はありませんし、もともとチェンバロのような鍵盤楽器で主に伴奏されるように書かれていますから、コンサート向きとも言えます。わたしも彼のアリアに興味をもって、聞いたり歌ったりしています。
オペラ『セルセ(クセルクセス)』中のアリア、『オンブラ・マイ・フ』(そのテンポ指定から、別名『ラルゴ』)は、「イタリア古典歌曲」の練習曲の一つで、良く知られた人気曲です。もとは男性の歌ですが、キャスリーン・バトルらソプラノ歌手も歌っています。CMで耳なじみの人も多いでしょう。「頼りにする木陰」という内容の詞がついています。
レシタティーヴォの部分は、割合と激しい気持ちも出てきますが、メロディ部分になると本当に穏やかで、広々とした曲調に心が癒され、偉大な人の胸に抱き留められているという気分になります。出だしの "Ombra mai fu" で、最初の音である "O" が長く伸ばされる間に、ピアニシモからだんだんにクレッシェンドしてきます。枝が伸び、緑の葉がその下にいる人を覆い隠すようです。歌い手としては、ここが肝だと思います。「ソー(延々と)。ミー。レード、ドー。ラ。シ。ドレミ、レード、レー。ララシ、ドー、ソ、ソー。ラ、ファー、ミ、ミー」と一つのなだらかな山が形作られる音のつながりが良いですね。
声の柔らかい人、呼吸と共鳴をしっかりコントロールできる人に、絶対のお薦め曲です。
わたしは古典派の端正な歌い方より、フリッツ・ブンダーリッヒが歌う、ドイツ語訛りの情感ある演奏が大好きで、繰り返し聞いて、真似しています。
オペラ『リナルド』の『私を泣かせてください』は、ソプラノの名歌です。すすり泣くような感じで、男声には向きません。引きずるような切々とした歌い出しが印象的です。「ミー、ミ。ファー、ファ。レーソーファ、ファーミ。ラーラー、シドレ、ソーソ。ド、ミーレー。ド、ドー」。物憂げであり、寂しげでもあり、芯の強さもありです。
ヘンデルの歌劇は、題名からみて、いずれの作品も英雄を主人公としており、悲劇的な内容のもののようです。
by 神澤和明





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Last updated  2018.08.21 09:00:20



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