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カテゴリ:戦争映画
2008 アメリカ 監督:キャスリン・ビグロー
出演者: ジェレミー・レナー、アンソニ・マッキー、ブライアン・ジェラティーほか 131分 カラー THE HURT LOCKER DVD検索「ハート・ロッカー」を探す(楽天) 2004年のイラクを舞台に、駐留するアメリカ陸軍爆発物処理班員の心理と緊迫するミッションを描いたドキュメンタリー調ヒューマンドラマ。2010年アカデミー賞で6部門受賞した女性監督キャスリン・ビグローの意欲作。今なおイラクで仕掛けられる爆弾テロに対抗する危険なミッションをハンディカメラを多用し、息詰まるような緊張感を醸し出す。さらに、処理にあたる爆弾処理班員の揺れ動く心情を、彼らの人生背景を交えながら描いていく。 イラクにおける即席爆弾(IED)は主に反政府、反米のテロ組織によるもので、政府機関や軍施設・車輌を破壊することを目的としている。ただし、その爆発で民間人が多く巻き込まれたり、民間人を人間爆弾に仕立てたりと、非人道的なテロ攻撃として知られる。こうしたIEDは劇中にも登場するが不発の榴弾砲や成形炸薬を用いたもので、この処理は遠隔地爆発させるのが最も効果的だが、市街地等では本作の主人公の様な爆発物処理資格者(EOD)による処理が必要になってくるのだ。 本作の主人公は第1歩兵師団にアタッチされた第52兵器グループ(52nd Ordnance Group)所属隊員で、専門の教育を受けたスペシャリストである。本作では歩兵部隊からの爆発物発見の情報により出動を要請され、軍曹をリーダーにした3人構成で任務に当たっている。装甲ハンヴィーで移動し、遠隔操作ロボットや耐爆スーツを着込んでの手作業処理で対処していく。当然のことながら手作業では信管除去や起爆装置除去時の誤爆の危険性もあるし、本作中でも登場するようにテロ犯による遠隔起爆操作で爆発する危険性もある。処理作業中に当たる兵士の極度のストレスはもとより、周辺の警戒にあたる兵士のストレスも尋常ではない。 本作では処理にあたるEODはジェームズ二等軍曹だが、残りの二人はサンボーン三等軍曹とエルドリッジ技術兵で、直接爆発物処理に当たらないところを見ると護衛要員として編成されているようだ。ちなみに、ジェームズ二等軍曹はアフガンにも従軍した経験があり、800個あまりの爆発物を処理した経験のある猛者となっている。サンボーン三等軍曹は7年間諜報部勤務経験がある設定になっている。 ストーリーとしては適度な起承転結と、7つのミッションシーンが連続して展開し、かなり見ごたえのある出来栄え。登場人物の個性や背景も連動して描かれているので、いわゆる物語として見た場合は完成度がかなり高いといえるだろう。爆発物処理シーンは爆弾処理映像と、緊迫する周辺映像を織り交ぜ、見る者を引き込んでいく。しかも、処理が必ずしも成功するわけでもなく、犠牲者が出るたびにそのミッションへの恐怖とテロへの怒りが湧きあがるのだ。 だが、一般的な物語としては上出来の部類と言えるのだが、戦争映画という視点で見た場合、若干の物足りなさを感じてしまう。まず、爆弾処理の緊張感と隊員のストレス表現の甘さがあげられる。エンターテイメントとしてはグロさや神経消耗を緩和する意味でこれでいいのだろうが、ミリヲタ的には物足りない (笑)。せっかくレアな題材を取り上げたのだから、そのあたりの描写をもっと期待していたのだが。噴き出る汗や震える手などの描写もあまりないし、何よりも爆弾処理班のミッションが軍全体の中でどのように位置づけられているのかや、その流れや経緯というのものが欠落している。あまり経費がかかっていないそうだが、周辺映像があまり映し出されていなかったり、登場する兵士数が少ないのもちょっと物足りなさを感じた原因かもしれない。 また、意外に淡々とミッションが遂行されすぎていて、リアル感がない。加えて、主人公のジェームズ二等軍曹の性格付けが危険を楽しむかのような勇者に描かれすぎていて、実際の隊員とは違うのではという非リアル感を感じてしまったのも残念。何度も言うが、エンターテイメントとしてはこれでいいのだろうが、本当の隊員の苦悩や恐怖というものをもっと見てみたかったところだ。 もう一点としては本作に政治性も社会性もあまり込められていないという点がある。余り色濃いメッセージが入っているのも閉口するが、本作ほどエンターテイメント性に終始していると、せっかくの題材の意味がないような気がする。何か一本筋の通ったテーマ性があると、もう少し心に沁みるものがあったのではないかと思うのだ。それだけ、本作からは心に響くものが感じられなかった。 本作はヨルダンでロケされたそうだ。イラク近隣国ということで映像の雰囲気は抜群だ。兵器類も装甲ハンヴィーのほか若干の戦車が使用されている。爆発シーンや銃器射撃シーンもかなり秀逸。爆発した爆弾の破片が飛び散るシーンも迫力あるし、テロ組織と銃撃戦を繰り広げるシーンではスコープで射撃指示をしながら銃を発射するのだが、発射から着弾までの時間差や射撃誤差などはなかなかリアルだ。死体など若干のグロい映像もあるが、人間爆弾の爆発シーンなどは思ったほどグロくはない。逆にこうしたグロさがない分リアル感を阻害したのかもしれないが。 なお、途中でイラク人に扮したアメリカ人部隊と出会う。彼らはPMSCと呼ばれる民間軍事会社の連中である。米軍が作成したテロリストトランプを持っている。賞金稼ぎ的な意味合いで登場するが、実際こうした人々が活動していることは興味深い。 全般に見やすい映画であったし、それなりに満足感を得ることができたが、果たしてアカデミー賞作品としてはどうなのかと言うと、若干疑問は残る。もう少し深みがあったらなあ。 興奮度★★★★ 沈痛度★★★ 爽快度★★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2004年夏のイラク。イラクに駐留する米陸軍第1歩兵師団のブラボー中隊にアタッチされている爆発物処理班が爆発物の処理にあたる。当初は遠隔操作ロボットを操作していたが、誘爆用火薬を乗せた荷台が破損し、班長のトンプソン軍曹が耐爆スーツを着て手作業に向かう。しかし、側にいたイラク人商人の携帯電話操作により起爆装置が作動し155mm榴弾が爆発し、トンプソン軍曹は戦死してしまう。 B中隊任務明けまで38日 トンプソン軍曹の代わりにジェームズ二等軍曹が赴任してくる。やや変わり者のジェームズ二等軍曹に真面目なサンボーン三等軍曹は余り馬が合わない。そんな中、住宅街で爆発物が発見されたと情報があり出動する。まず確認のために遠隔操作ロボットで確かめようとするサンボーンに対し、ジェームズは自ら耐爆スーツを着て行ってしまう。しかも自らスモークを焚いて味方のサンボーンやエルドリッチ技術兵から見えなくしてしまう始末だ。いらだつサンボーン軍曹がようやく目にしたのは、歩兵の制止を無視して突っ込んでくるタクシーだった。ジェームス二等軍曹はタクシーを制止し、拳銃で脅してタクシーを戻らせる。そして爆発物を発見して処理。さらにケーブルにつながれた6つの爆弾を発見し、処理に成功する。サンボーンはジェームズにルールを守れと言うが、ジェームズは全く意に介さない。 あと37日 国連施設の前に駐車している不審な車があるとの情報で出動。ジェームズは車に向うが、そこにテロリストの狙撃で車が炎上。サンボーンとエルドリッチが周辺警戒する中、ジェームズは平然と消火活動をし、トランクからたくさんの爆弾を発見する。まだ起爆装置を持ったテロリストがいるかもしれない中、ジェームズはどうせ死ぬならと防護服を脱ぎ、起爆装置を探し始める。ビデオカメラを構えるイラク人など怪しいギャラリーがいる中、サンボーンらは極度の緊張感を強いられるが、ジェームズは淡々と起爆装置を探し、ついに車内のスイッチを発見して除去する。やってきた将軍から褒められたジェームズはこれまでに873個もの爆弾を処理したことを明かす。 あと23日 砂漠の中で爆発物を発見した班は爆破処理を実施する。その途中でジェームズが帽子を忘れたと取りに戻る。サンボーンは誤爆しやすいんだと呟きながらジェームズを爆死させてしまおうという考えが一瞬よぎる。その帰り、砂漠の中でトランプに描かれたテロリスト幹部を二名連れた民間軍事会社の連中と出会う。タイヤがパンクして立ち往生していたのだ。そこに追走してきたテロリストらから狙撃を受け、軍事会社の兵が死亡する。さらに迫撃砲でも攻撃を受け、また二人が死亡する。ジェームズは遠くの建物に籠ったテロリストをスコープで確認し、サンボーンが狙撃していく。背後からも敵が迫り、エルドリッチがこれを撃退する。こうして徐々に仲間の距離が縮まっていくが、ジェームズには離婚した妻と息子がいることが判明する。 あと16日 班は不発弾処理に出かける。精神消耗しているエルドリッチの主治医ケンブリッジ軍医大佐も安全だということで同行する。そこに爆弾製造工場のアジトを発見する。さらに少年の死体に爆弾を詰めた人間爆弾を発見。ジェームズは基地で仲良くなったベッカムと言う少年ではないかと疑念を持ち、彼の死体から爆弾を除去し連れて行こうとする。だが、民間人に扮した爆発物の爆発でケンブリッジ大佐が戦死する。ジェームズは基地に戻り、ベッカム少年を使用していたイラク人商人を詰問し、ベッカムを人間爆弾に売ったのでないかと父親に迫るのだった。 晩になり大規模な爆発事件の調査に出かける。その調査で遠隔操作をした痕跡を発見し、頭に血が上っているジェームズは追撃を決意する。エルドリッチは乗り気でなかったが参加し、ほどなくテロリストたちを追い詰める。だが、エルドリッチは足を撃たれて負傷。拉致されそうな所を救いだされる。負傷して後走されるエルドリッチはジェームズに悪態をつくのだった。また、ベッカムは生きており、またジェームズに話しかけるが、ジェームズはもう情をかけまいと無視するのだった。 あと2日 一般市民に爆弾を巻きつけた人間爆弾を発見する。しかもタイマーがくくりつけられており、サンボーンは無理だと反対するが、ジェームズは爆弾除去に向かう。だが、堅い鍵が複数付けられており、それを時間内に切ることは不可能だった。ジェームズは男に申し訳ないと言って退避し、爆弾男は爆死してしまう。 ジェームスはイラクから本国に帰還。離婚した妻と息子に再開する。だが、平和な生活は彼に満足感を与えなかった。再びジェームズはイラクの任務に戻るのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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