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カテゴリ:小説「月の欠片(かけら)」
この作品はフィクションであり実在の人物団体等とは一切関係ありません。 まあ、しかし世の中の変化は大きい、このサウジでは、その程度の変化だから、良い方だろう、とスルタンは考えていた。アメリカに留学した時には同級生からサウジについて様々な質問を受けた。テキサス大学では異文化に興味を持っていた者、好奇心旺盛で質問攻めをする者、様々だった。イスラムに関する質問には答え易かったが、民主化についての質問には答え難かったことを覚えている。 彼等には、イスラム、もしくは沙漠の民主主義と言っても、なかなか理解は出来なかった。国王には独裁専制君主などとレッテルを貼って、譲らない者もいた。 スルタンは、そんな時、イスラムを理解しなければ、判る筈もないと匙を投げたものだ。 それが、ここのところ、イスラム世界でも新たな風が吹き始めた。チュニジア、そして、イスラム大国、エジプトの動乱は、特に、スルタンに考えさせることが多かった。 アブドルアジズに言われて、何度か蜂起した養蜂家を訪れて、説得を繰り返していた中での、今回の動乱発生は、スルタンの身に染みた。 いかに統制をしようとしても、外国のニュースは衛星などを通じて入って来てしまう。ファリファ達は、エジプトの動乱を見て勢いづいていた。その矛先は、シェイク家に向いていた分けではないが、事と次第によっては、シェイク家に向けられるかもしれないのだ。スルタンはもともとアブドルアジズのために養蜂家達の蜂起を鎮めるつもりなどなかったが、それを表面に出す訳には行かなかった。 協力をしなければ、アブドルアジズは、大軍を率いて、シェイク家を攻めることだろう。今、養蜂家達が立て篭もっている城は難攻不落だが、シェイク家の館は、ずっと攻め易い。それこそ、一溜りも無いことだろう。それに、シェイク・イスマイルは、アブドルアジズに楯突くことなど出来はしない。 スルタンは、霧深い、断崖の城へと足を運んでいた。
スレイマンは、ムハンマド達の自爆テロ計画に参加して多くのことを学んだ。リヤドに戻って、同様の計画を実行するためにはどうしたら良いのか、既に多くのヒントを得ていた。それに、アブドルアジズにアフガンの古美術品を売って潤沢な資金も手に入れていた。 リヤドに戻ったら、ファイサリア・タワーの爆破に直ぐ着手するつもりだったが、ここのところ急に高まって来た中東の不安を何とか利用出来ないものかと考えていた。 イスタンブール支部のムハンマドは、エジプトの動乱を自分達の活動に上手く取り込むつもりでいた。サウジでは、同様のことが出来るとは思ってはいなかったが、あのエネルギーを何とか利用したいと思っていた。 アブハには、エジプトのイスラム原理主義の流れを汲む者が沢山いる。リヤドにも、それほどではないが、イスラム原理主義を標榜する者がいる。そんな勢力を上手く生かせないものだろうかと思いを巡らせていた。 アルカイダ・サウジ支部、沙漠のサソリの勢力を増強するには良い環境が整って来た。サウジでは、カイロのように動乱が直ぐ起きるとは思えないが、カイロの動きに共鳴するものも多数いるに違いない。 自爆テロの次の目標が、スレイマンの頭の中に浮かんで来た。サウジ政府転覆も決して遠い夢ではない。 人気ブログランキングに参加しています。クリックのほどよろしく
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最終更新日
2011年02月06日 23時37分42秒
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