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2011年04月27日
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この作品はフィクションであり実在の人物団体等とは一切関係ありません。
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Kazuo KAWAHARA All rights reserved. 
 

 イブラヒムには、やはりアブドルアジズの気持ちが分からなかった。アブドルアジズが小皿と言ったが、アフガンで出土したその皿は直径二〇センチほどだから、それほど小さい分けではない。しかし、だからと言って、それがイブラヒムの貰った金塊の二倍以上の価値があるとは、とても思えなかった。月の彫られた、その皿をアブドルアジズは、余程気に入っているのだろう、まじまじと見詰めていた。

 悠久の歴史を秘めたその皿は、アブドルアジズの心を惹き付けて離さなかったのだ。イスタンブールのムスタファは、それを祭器ではないかと推測していたが、確かに、神が宿るに相応しいもののように見える。

「殿下、それでは私めはそろそろ失礼致します」

 イブラヒムは、夢中になってその皿に見入っているアブドルアジズに恐る恐る話しかけた。アブドルアジズは、その声でハッと我に返った。

「おう、そうだった。イブラヒム。まだ、いたんだったな。いや~、この皿に見入ってしまって、つい、お前がいるのを忘れてしまっていた」

「殿下がそのようにお気に入りのものをお持ち出来まして本当に幸いでした」

「うむ。改めて礼を言うぞ。そうそう、その金塊を運ぶのを手伝わせよう」

 アブドルアジズは、側に控えていた侍従にイブラヒムの手助けをするよう命じた。侍従は仲間を呼び、二人でイブラヒムが金塊を運ぶのを手伝った。

 

 イブラヒムは、インターコンチネンタル・ホテルの自室で、ニヤニヤとしながら昨日のことを思い出していた。

 そこに、シルバーマンサックスのブラウン会長から電話が掛かって来た。

「イブラヒム。馬鹿に楽しそうだな」

 ブラウンは、イブラヒムがまた大儲けでもしたに違いないと思っていた。

「会長こそ、愉快そうですね」

 確かにブラウンの声は弾んでいた。ここのところ原油価格が思う通りの高騰ぶりだったので、楽しくて堪らないのだ。昨年末までに九〇ドルを超したものの、それは本当に年も押し迫った一二月二二日だった。しかも、一月上旬、下旬、そして二月の上旬、中旬と九〇ドル割れとなってしまった。この時には、さしものブラウンも、イブラヒムに何度もぼやいていた。

 しかし、二月下旬に、イランの軍艦がスエズを通過していると報じられたり、リビア情勢が悪化して、流れは大きく変わった。ブラウンは以降、俄かに活気付いた。

 三月上旬に一〇〇ドルを超えると、もう有頂天だった。

 もっとも、ブラウンは、アブドルアジズにブレントに投資をするよう依頼していたし、ブレントは一足先に一二月初めには九〇ドルを超え、一月末には一〇〇ドルを超えていた。しかし、それはロンドンの話であり、やはり取引規模も大きく本拠を置くニューヨークで低迷していたのでは仕方が無い。その意味ではようやく満足の行く状況になってきたばかりと言えそうだ。

「まあな。時期が遅れたが、ようやく、思う通りになって来たと言えるだろう。だがな、これからだ」


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最終更新日  2011年04月28日 00時12分48秒
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