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カテゴリ:コラム
明治学院大学教授 川上 和久
横浜市都筑区の大型分譲マンションで、廊下手すりに傾斜による2センチ以上の段差が生じている問題を契機として、くい打ち工事を担当した旭化成建材が、建物を支えるための基礎工事で、くいが必要な強度を確保できるための深さまで到達していなかったことなどをデータを改ざんして偽装していた事実が明らかとなった。他のにも全国でのデータ改ざんが明らかになり始め、問題を収束するどころか、ますます広がる気配を見せている。 データの偽装では、2005年の「耐震強度偽装事件」が10年前のこととはいえ記憶に新しい。構造設計者の偽装で、耐震強度不足のマンションが建設・販売され、国は建築確認申請手続きを大幅に厳格化するため、建築基準法を改正することとなった。 今回の事態を受けて、国土交通省も、再発防止のための対策を立てていくことを求められる。その中で問題となっているのが、民間建設工事請負契約における、「受注者責任」が問われる一方で、「発注者責任」がほとんど問われてこなかったことだ。 「受注者」である建設業者は請負契約を結び、設計図面に従い、決められた予算と工期で工事を完成させる責任が生じる。この「予算と工期」が、改ざんの温床になっているという指摘がある。構造設計通りのくいでは、固い地盤に届かないことがわかっても、別途くいを発注して打てば、追加の予算が掛かるだけでなく、工期が遅れることになる。発注者側の管理や監督が甘くなれば、こういってときに、「予算の範囲内で工期を守る」目的で、不正が起きやすくなる。 公共工事については、その品質を確保するために、適正な価格、適正な工期で発注者に取り組むようになったと言われているが、民間では、どうしてもコスト意識が優先する。 「発注者責任」の概念をもっと取り入れ、適正な価格と工期をどのように浸透させるか。規制の一方で、居住する消費者を保護するための発注者のあり方を、政治が考えることが切に求められている。 【ニュースな視点】公明新聞2015.11.5 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 26, 2015 07:05:32 AM
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