私が知っている素晴らしい人々の一人に、ニューヨークのマンハッタンで、鮭の切り身を作る仕事をしている人がいます。
この仕事は毎日毎日、鮭の身を薄く切ること。彼は家に帰ると、自分ほど鮭の身を迅速に薄く切る人はいないと誇りに思うのです。
人生とは、無為に過ごすために与えられた時間ではありません。自分を必要としている人や社会に貢献していくことで、より良く形づけられるものなのです。
こうしたことを通し、私は人間がその時にしていることに完全に集中し、自分の能力を最大に発揮している状態を理解しようと試み、それを「フロー」と定義しました。
音楽やスポーツから「フロー」を生み出すのは簡単ですが、真の挑戦は、仕事や家庭の中で、そうした経験を生み出していけるかということです。
「フロー」には、さまざまな様相があります。行動と意識が一致します。失敗に対する恐れがありません。そして、時間の感覚も通常とは異なります。充実した時間は、短く感じるようなものです。
「フロー」に至るには、条件があります。(1)明確な目標が設定されている(2)行動に対する評価がある(3)目の前の課題の難しさと対応する能力のバランスがとれている、であります。
人生の中で、自分が明確な目標を持つことや、自分の行動を周囲が評価してくれることは、何度もあります。ただ、「目の前の課題の難しさと対応する能力のバランスがとれている」場面に出会うことは、それほど多くないといっていいでしょう。
自分に与えられた仕事が簡単な時、人は自分の能力に見合ったものでないと思い、仕事の価値を低く見がちです。「フロー」は生まれにくくなります。
では、レベルの高い仕事をするチャンスをつかみ取ればいいかというと、仕事を成功に導く能力がなければ、失敗に終わります。
だからこそ、「何ごとにもベストを尽くす」ことが大切なのです。たとえ、つまらない仕事でも、ベストを尽くせば、人生の次のステップは見つかるものです。
卒業生の皆さんが職場や家庭などで、フロー体験を作り出していけるよう、願っております。仕事と娯楽を分け隔てる必要はありません。仕事も娯楽も、あなたを全体人間へと導くために必要なものです。
そして、最後の提案は、「自分のためだけでなく、他者にもベストを尽くす」ということです。
どんな道に進もうとも、創立者が皆さんに贈られた大学の使命を忘れないでください。
卒業生の皆さんが、貢献的人生を生きゆく世界市民に成長されることを期待しています。
【アメリカ創価大学第13回卒業式 心理学者チクセントミハイ博士記念講演】聖教新聞2017.6.1