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カテゴリ:コラム
舞踊演出家 村 尚也
阿吽の呼吸————宇宙始源の音「阿」に対して、すべてが終焉する「吽」という。一般的には「あ」と一言いいだしたら、すぐに「うん」と了解するような気心の知れた関係などに使われる言葉だ。丁度「つうかあ」にも似た感覚といえる。こちらの方は「つうことだ(ということだ)」といえば「そうかあ」と納得するので、江戸っ子の早呑み込みに似合う。
ところで阿吽といえば神社の門前の左右に並ぶ狛犬や稲荷の狐、沖縄のシーサーを思い浮かべる。その多くは口を開けた阿形と、口を閉じた吽形で坐している。東大寺南大門の金剛力士象も阿吽の二体で、仁王ともいわれる。ところで仁王像には、よく小さな白いゴミのようなものが張りついているのを不思議に思わなかっただろうか。
これは民間信仰で、紙を小さく切って口中で噛み、例えば病気平癒を祈る時など、その幹部をめがけて投げつけて、そこにピタリと付けば願が叶うとされたからだった。特に江戸時代の飛脚屋は足が商売道具でもあったから、筋骨隆々たる足を持つ仁王は飛脚屋の守り神と崇められた。それもあって、仁王には巨大な草鞋が奉納される風習を生んだといわれる。
もとは密迹天という、仏の秘密(大切な教え)を聞こうと近侍する存在で、一尊だけであったが、二尊に分かれて仏を守護するようになって那羅延天がもう一方におさまるようになった。こちらの元はビシュヌ神という勝力、大力の神で、密迹が阿形、那羅延が吽形で堂々たる体躯で守護したから俗に金剛力士といわれるようになった。金剛とはダイヤモンドのように固いもの、力士は力ある者という意味から、強い武士、さらには相撲取りへと転じた。横綱が太刀を携えるのは力士が武士と考えられた時代の遺風ともいえよう。横綱の土俵入りで露払いと太刀持ちは金剛力士となり、本尊である横綱を守護する見立てとなるのだ。
【言葉の遠近法】公明新聞2017.11.29 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 1, 2018 05:07:40 AM
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