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August 6, 2018
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カテゴリ:子どもの貧困
加藤 彰彦

■深刻な人間関係の喪失
6人に1人の子どもが貧困状態にある————2012年のデータから日本の子どもの貧困状況が明らかにされていますが、これは「相対的貧困(平均的所得の半分未満)」にある世帯が占める率を基に導かれたものです。
しかし、現在、子どもを取り巻く貧困には、いわゆる経済的貧しさに限らない側面があります。経済的貧しさが引き金となり、可能性や希望、生きる意欲を失うという貧困があります。さらに最も深刻なのが、人間関係の貧困です。本来、支え合うべき地域、人々との関係が乏しく孤独状態にある貧困です。
経済的貧しさ、生きる意欲を失う貧困、そして人間関係の貧困が重なることで、現在の貧困は子どもたちに、よりつらく重くのしかかるものとなっています。
こうした貧困の背景には、労働現場における非正規雇用が増大し、低賃金で不安定な就労形態が拡大することで、生活の安定しない家庭が増えたことがあったと思います。安心して働き続けられる現場もない社会では大人たちのゆとりも少なくなり、個々の家庭は不安定な暮らしを強いられ、一人親家庭も増加しました。
また、経済構造が変化したことで、地域の経済基盤であった中小企業や地元商店は生き延びることが困難になり、支え合う力も低下していったと思います。家庭が崩壊し、その家庭を支えてきた地域も衰退することで、現代の貧困は、子どもたちに暗い影を落としているのです。しかし、20年、30年後には、現在の子どもたちも、社会の主要な構成員となります。子どもの貧困をこのまま放置すれば、日本社会が疲弊し、崩壊してしまうことになるでしょう。
15年に日本財団が発表した「子どもの貧困の社会的損失推計」レポートによれば、子どもの貧困を放置した場合、現在15歳の子ども1学年だけでも、社会が被る経済的損失は約2・9兆円に達し、政府の財政負担は1・1兆円増加することが明らかになっています。子どもの貧困は、日本社会そのものが貧困化する危険をはらんでいるのです。


■実態調査から支援活動が
冒頭に挙げた貧困の実態が明らかになって以降、各自治体でも、市民や民間団体で、できることに取り組もうと、さまざまな対策が行われるようになりました。
沖縄では、12年以前は、県全体を挙げた取り組みには至っていませんでしたが、13年の「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の成立を受け、翌年、子どもの貧困対策室を設置。「子どもの貧困実態調査」の実施も決定しました。
こうした調査の実務と分析を担当したのが、「沖縄県子ども総合研究所」で、私もその研究所の一員として参加しました。そして、県全体を挙げて取り組み、明らかになった沖縄県の子どもの貧困率は29・9%という驚くべき数字でした。国が17年に発表した全国データ(13・9%)の2倍に達していたのです。
また、同時に行った小中学生と保護者への調査では、就学支援も、対象となる困窮世帯の約半数が利用していなかったことも分かりました。
県は、ただちに対策のためにの基金30億円を積み立て、子どもの居場所づくりや就学援助の周知を進める広報活動を実施していきました。調査当初、県担当者3人から始まった「子どもの未来応援チーム」は「子ども未来政策課」に格上げされ、給付型奨学金制度の導入など、新たな支援策に着手し、「30年までに貧困率10%」を目標に取り組んでいます。
さらに、民間における活動も盛んになりました。その典型が「子ども食堂」です。15年に、最初の子ども食堂が沖縄市に開設され、現在、子ども食堂や学習支援などの子どもの居場所の数は100カ所を超えました。お米や食材など寄付する人も多く、小中学校、地域の自治会、子ども会、大学生との協力関係も生まれ始めています。
沖縄は、七十数年前の戦争によって、大きな犠牲を払い、多くの尊い命が奪われました。しかし、その中で、生活はいかに貧しくても一緒に力を合わせ、支え合い、助け合って生き続けてきた長い歴史があります。いま、子どもの生きる権利が奪われている現実を目の当たりにし、互いに支え合う積極的な行動が生まれていったのだと思います。


■「信頼の貯金」を積み上げる
子どもの貧困からの脱出——そのスタートは、私たちの身近にある「子どもの貧困」にまず気付き、そこからできることは何かを考え、関わろうとする気もちを持って行動することだと思います。
子どもに関心を持ち、寄り添うこと。そうすることで、子どもは信頼できる人と出会えたと感じます。それを私は「信頼の貯金」と呼んでいますが、「信頼の貯金」を積み上げることが、失われていた人間関係を取り戻すきっかけになるのではないか。そして、子どもたちもいつか必ず、その「信頼の貯金」を社会に返してくれるだろうと思うのです。
また、皆が子どもを大切にする意識を高めることで、地域がまとまっていくことも期待されます。これまでは血縁、地縁が人々のつながりのかたちだったけれども、そこに“子縁”というかたちで人々のつながりを形成し、子どもを軸にした新しい地域づくりを目指すことで、子どもの貧困対策は、地域の再生につながると考えています。
(沖縄大学名誉教授)

【文化】聖教新聞2018.3.29





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Last updated  August 6, 2018 05:06:42 AM
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