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January 13, 2019
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カテゴリ:歴史

舞踊演出家  尚也

 

『今昔物語集』第二十二には、藤原氏の説話が年代順に記されているが、鎌足の次男・不比等については優れた才能と出世のみで、逸話らしきものは語られていない。私がなぜそれを気にするかというと、古典芸能では藤原不比等が有名なエピソードに関わっていることが少なくないからである。

 

まず珠取伝説—―—―唐の高宗から賜った三つの宝のうち、(めん)(こう)不背(ふはい)の玉を竜宮に奪われてしまう。珠玉の中にある観音が、どの角度からも見る人に顔を向けているという宝だ。それを取り戻すため、不比等は身をやつして讃岐の志度(しど)(のうら)の海女と三年間(ちぎ)る。ある日、不比等は妻となった海女に事実を告げ、二人の間にできた子(後の房前(ふさざき))が成人した後、官に就ける事を約して、海底の竜宮へ玉奪還を依頼する。死を覚悟して、乳の下をかき切って玉を隠し戻って来た海女は絶命する。この物語は、能の『海士(あま)(流派により海人など)や()(うた)(まい)『珠取』(海女)』などで人気がある。

 

第二は紀州道成寺の縁起。海中から(かつ)ぎ上げた千手観音を小さな(ほこら)(まつ)る海女の宮子(みやこ)。この女性の髪が長く美しいことから藤原不比等は宮子を自分の養女とし、ついに文武天皇の妃にする。そして宮子がひそかに念じていた千手観音のために道成寺が創建される。

 

第三は浄瑠璃や歌舞伎でお馴染みの『妹背山(いもせやま)婦女(おんな)庭訓(ていきん)』。ここでは烏帽子(えぼし)(おり)に身をやつし、杉酒屋のお三輪や(たちばな)(ひめ)との恋もようの最中、ついには蘇我入鹿(そがのいるか)討伐へと物語を牽引していく。蘇我入鹿は乙巳(いっし)の変(大化の改新)で滅ぼされた張本人だが、父の名は蘇我蝦夷(えみし)、祖父は馬子と名はいずれも後の為政者たちによって(おとし)められ命名された(にお)いがする。それに比べ「ふひと」は史の意味だからまさに歴史を作った人の自負が見え隠れする。あるいは「不人」と取れば、超人にも非道とも読むのは私だけだろうか。

 

 

【言葉の遠近法】公明新聞2018.8.8






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Last updated  January 13, 2019 06:12:39 AM
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