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カテゴリ:教育
田村耕太郎(シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授)
私が世界最高の非戦の書だと思うのは『孫子の兵法』だ。現代の日本人が最も読むべき古典だと思う。そのなかに「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するのは善の善なるものなり」という有名な一節がある。敵と戦わずに屈服させることが、最高の戦い方というのだ。 そもそも人や会社、組織はなぜ戦うのか。戦うこと自体は目的ではない。たくさんの犠牲者を出して勝っても意味はない。戦わずに目的を達成することができるなら、それがいちばんである。しかし、きちんとした目的観をもっているリーダーは意外と少ない。だからやらなくてもいい戦いをし、無駄にメンバーを疲弊させる。個人においても同じである。何か目的を達成するには、無闇に敵と戦ってはいけない。むしろ自分の目的を達成するために上手に利用するのだ。 「アホ」とは、あなたの行動や発言に何かいちゃもんをつけ、足を引っ張る人のことだ。こういう人はどこの世界にもいる。まともにやり合ってはいけない。仕返しをしようと思ってもいけない。かえって悪循環に陥るだけだからだ。 少し前にドラマで使われた「倍返し」という言葉がはやったが、あれはテレビの世界だけの話である。現実社会で、仕返しや復習が価値を生み出すことはない。かつてアホと戦い、貴重な時間とエネルギーを無駄にしてしまった私の経験からも、それは間違いない。 まず対人関係において大事なことは、「敵」という発想をもたないことである。敵をつくっていいことなど何一つない。とくに変化の激しい今の時代、敵だと思っていた人間が突然、自分にとって有益な人間なることもある。どんな人とも柔軟につきあっておいたほうがいい。 敵や苦手だと思う人はたいていの場合、自分の経験不足からくる先入観で、そう見えているにすぎないことが多い。深く付き合ってみれば、素晴らしい人物だったということはよくあることだ。人生経験を積めば人間の好みは変わるし、人への理解も深まることを忘れてはならない。 ただこちらが敵をつくらないようにしていても、相手から一方的に攻撃されることもある。理不尽な仕打ちに対して、感情的に反撃してしまうこともあるだろう。しかし、こちらも怒りにまかせた短絡的な行動をとってしまっては、アホの思うツボである。理不尽な行動に対しては、反射的に行動してはいけない。まずは「なぜこの人は自分を怒らせるような行為をするのか」と、理由がわかれば対策も見えてくる。
【「自分の人生」を生きよう】潮2018年9月号 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 19, 2019 03:46:13 AM
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