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カテゴリ:仏教講座
麻布大学名誉教授 鈴木 潤さん
■開かれた対話こそ共生の王道 人間は誰しも、自分一人では生きていけない。それが、感染症の研究に携わる私の実感です。 実は、何十兆個もの細胞から構成される私たちの身体には、その細胞数の10倍もの細菌が共生していると言われています。そうした細菌がさまざまな食物を分解し、加えてビタミンなどを合成しているからこそ、私たちは、それらを体内に吸収することができ、生命を維持できるのです。 この細胞の働きに関して最近、新しい事実が明らかになりました。それは、町内の常在菌であるクロストリジウム菌が、私たちの身体を病原菌などから守る「免疫細胞」の機能をコントロールする役割を担っていたという事実です。 クロストリジウム菌は食物繊維を食べ、酪酸を産生します。その酪酸が免疫細胞に取り込まれると、周囲の免疫細胞に〝落ち着いて〟というメッセージを伝える制御性T細胞に変化することが分かったのです。 昨今、患者数が増加しているアレルギー疾患や潰瘍性大腸炎などの難病は、制御性T細胞が何らかの影響で減少することから引き起こされると考えられています。その意味からも、こうした治療に役立つのではないかと期待されています。 そもそも制御性T細胞を増やすといっても、それは、私たちが食物繊維を取ることから始まります。だからこそ、バランスが取れた日々の食生活が大事になることは、言うまでもありません。 さて、この制御性T細胞が示すように、私たちの体内では、細胞同士や細胞が集合した臓器の間で、さまざまなメッセージが頻繁に交信されています。それは黒鳥寺生む金のように、細菌と免疫細胞という、いわば〝異種細胞〟の間でも行われています。そうしたメッセージを互いに受け取る中で、私たちの身体の調和は保たれているのです。逆に、病原因子などの影響でそうした調和が乱れると、私たちは病気になるのです。 ここで大事なことは、そうしたメッセージをやりとりするために、一つ一つの細胞膜では、いつでもメッセージを受け取れるよう、ほかの細胞に対して〝常に開かれた状態〟にあるということです。この、いわば受信機のような役割は、さまざまな免疫細胞にもあり、体内を循環する中で受けたメッセージに応じて、必要な合成や変化を起こしています。もし細胞膜が閉じた状態で、このようなダイナミックなメッセージのやりとりができなくなれば、私たちの生命は、満足に活動することができなくなってしまうでしょう。 その点、日蓮大聖人は「妙と申す事は開と云う事なり」(御書943㌻)と仰せです。これは、妙法には人間をはじめ、あらゆる生命の持つ可能性を開いていく力があることを教えられた御文かもしれませんが、その背景として、そもそも生命が「開」という特性を本質的に備えているからこそ、このように仰せなのだと思えてなりません。 私たちの身体は、細胞レベルで周囲との調和を保つために、開かれた状態です。その意味で考えれば、開かれた心で周囲と関わり、時には苦手な相手とも対話を重ねながら、社会の調和を育むために努力する私たちの学会活動こそ、最も自然な生き方と言えるのではないでしょうか。 さらに言えば、対話の中で自らの心を鍛え上げていく学会活動は、免疫学の観点から見ても、私たちの健康にとって、とても良いことなのです。なぜなら、心と身体は自律神経によって密接につながっており、心が強くなることでメッセージが発信され、体内の免疫機能も高まることが知られているからです。 当に学会活動は、社会の調和だけではなく、体内の調和ももたらす王道。そう自覚して、私たちは開かれた心、開かれた対話で共生の世紀を開いていきたいものです。 (副学術部長)
【現代と仏法―学術者はこう見る 第9回】聖教新聞2018.11.30 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 17, 2019 05:06:19 AM
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