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May 20, 2020
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希望は正しい知識と行動から

新がとコロナウイルスの正体を知ることが、私たちの身を守るための第一歩――そう主張するのは、ウイルスが句を専門とする東海大学医学部の山本典生教授。現在の研究で分かっていることや、一人一人ができる感染予防法などを電話で聞いた。(聞き手=加藤伸樹)

 

ウイルスの「挑戦」には

人類の知恵と絆で「応戦」

東海大学医学部  山本典生教授

 

――新型コロナウイルスについて、研究が進む中で分かってきたことを教えてください。

 

ウイルス感染は、ウイルスが体内の細胞と結合し、自らの遺伝情報(RNADNA)を複製させていくことで広がります。新型コロナウイルス(SARSCoV2)の感染は、まだ謎が多いものの、人間の細胞膜にある「ACE2」というタンパク質と結合することから始まると判明してます。私自身、これまでのSARS(重症急性呼吸器症候群)の研究をしてきましたが、そのきっかけとなるタンパク質と同じです。

ACE2の量は臓器によって違いますが、胸の奥にある細胞で多く発現しています。そこでウイルスが増殖するため、気道の比較的浅いところで増殖するインフルエンザウイルスと比べて、重症肺炎が起きやすいのでしょう。またACE2は、心臓や腎臓などの細胞表面にあることから、感染が多臓器不全にもつながると考えています。

 

 

――これまでも重症化のリスクが高いといわれてきた心不全、呼吸に疾患などの基礎疾患のある方は、やはり注意が必要ですね。

 

一般的に、高齢者や基礎疾患のある方は、ウイルスに対する炎症反応が起こりやすいことがわかっていますが、新型コロナウイルスの感染メカニズムから考えても、こうした方々を感染から守らなければなりません。またACE2は血圧を調整する役割を担うタンパク質なので、感染による血圧の乱れが人体に悪影響を及ぼしてしまう高血圧の方も注意が必要です。

ACE2は最近、舌の細胞にも発現しているとの報告がありました。こうしたことが背景で「何を食べての味がしない」という味覚障害につながっている可能性も指摘されています。

 

 

――世界で今、研究者がウイルスの解明に当たりながらワクチンや新薬を開発しています。実用化の見通しを教えてください。

 

ワクチンは急ピッチで開発が進んでいます。安全性や有効性を調べるため、通常は実用化までに数年を要しますが、1年半程度で実用化される者も出てくると思います。ワクチンは体の免疫系に働きかけ、体内でウイルスへの抗体(抵抗力)をつくらせるものですが、今回のウイルスは、その抗体がかえって症状を悪化させる可能性も指摘されています。開発されたワクチンの安全性などは、慎重に見る必要があります。

まだ治療薬の研究も精力的に行われています。新薬をゼロから開発するには、一般的に10年後に特効薬が開発されても、目の前で起きている感染症の治療には使えません。そこで、別の病気に対してすでに開発された薬を、今回の治療に転用するという研究が進められています。現時点で治療薬の候補として挙げられている薬剤は、ほとんどがこの枠に入るものです。

 

 

――「アビガン」や「レムデシビル」など、有効といわれる薬が次々と出てきていますね。

 

薬には、さまざまな形でウイルスの動きを制限する働きがあります。「ファビピラビル(アビガン)と「レムデシビル」は、どちらもウイルスのRNA複製を抑える薬です。アビガンは抗インフルエンザウイルス薬、レムデシビルはこうエボラウイルス薬として開発されましたが、作用メカニズムとしては、これらのウイルスに限定されないと考えられます。そのため、今回のウイルスへの転用が早くから検討されました。

私たちの研究グループでは、エイズの薬としてすでに実用化されている「ネルフィナビル」が、今回のウイルスの増加の抑制することを見いだしました。このほか、喘息薬の「シクレソニド(オルべスコ)」、抗寄生虫薬の「クロロキン」や「イベルメクチン」、リウマチの治療薬「トシリズマブ(アクテムラ)」なども有効と期待されています。

現状、どの薬が最もよいかという結論は出ていませんが、たとえばアビガンは副作用の面で妊娠中の方には使用できないなど、特定の薬だけでは対応できない方も出てきています。また将来、そうした薬に耐性を持つウイルスが現れる恐れもあることから、薬の選択肢を増やすことが、多くの人の命を守ることにつながると考えます。

 

 

――〝目に見えない敵〟ということもあって、不安を感じている人もいます。

 

ウイルスは、電子顕微鏡を通さなければ見えない大きさです。まさに目には見えない敵ですが、人類にはウイルスからの「挑戦」に対し、巧みな技術と知恵で「応戦」してきた蓄積があります。その中で、これまで不治の病と恐れられたエイズも、今では効果的な薬が見つかりました。今回も、絶対に希望はあると考えています。

また新型コロナウイルスは、未知のものが多いものの、分かっていることはあり、まったく弱点がないわけではありません。ウイルスの正体をしり、その弱点を踏まえて行動すれば、一人一人も見を守る「応戦」ができると思います。

 

 

――ウイルスの挑戦に応戦する中で、人類は希望を見いだしてきたのですね。今回のウイルスの弱点と私たちにできる応戦の方法を教えてください。

 

一つは、新型コロナウイルスの膜(エンプロ―プ)は、石けんやアルコールに弱いことがわかっています。ですので、こまめに石けんを使って手洗いしたり、アルコール消毒したりすることで、感染リスクを減らすことができます。

またウイルスは体内の細胞と結合しない限り、自己増殖できないことも弱点の一つでしょう。それを防ぐためにも、接触感染と飛沫感染への注意が必要です。

接触感染は、ウイルスが付着した手で自分の口や鼻を触ったり、その手で食べ物などを食べたりすることで起ります。飛沫感染は、くしゃみや咳で巻かれたウイルスを含む飛沫を、自分の体内に取り込んでしまうことで起ります。

こうしたウイルスの弱点や感染の特徴を踏まえた上で、むやみに自分の顔を触らないよう心掛けたり、密集、密接、密閉という「3密」を避けたりすることが重要です。また、マスクは〝ウイルスがマスクの繊維を通過してしまうので効果がない〟と言う人もいますが、手についたウイルスが口に入ることを防ぐ効果があることから、感染予防にも有効と考えます。

 

新型コロナウイルスの弱点

   石けん・アルコールに弱い

      ↓

小まめな手洗い・消毒で撃退

 

   自分では増殖できない

      

接触・飛沫からの感染に注意

 

 

 

――ウイルスの正体を知ると、どこに気を付けるべきかが明確になります。

 

人との間隔を空ける、対面ではなく横並びで食事をするなど、政府の専門家会議が提言する「新しい生活様式」も、こうしたウイルスの弱点を踏まえて行動することを意味します。大事なことは、正しい知識をもとに、何が感染につながるのかを一人一人が考えて生活することです。

また感染症には、人と人の接触を避けなければならない面があることから、地域や社会を分断してしまう側面があります。その点、現代は電話やメールなどで周囲の人々と連絡を取り合うことができ、その中で正しい知識を共有したり、不安に思う人々を支えたりすることもできます。そうした励ましの絆も、立派な感染症への「応戦」につながるのではないでしょうか。

今後も、新たなウイルスのパンデミック(世界的流行)が起らないとも限りません。私は、そうした時代が来たとしても、人類が乗り越えていける「応戦」の土台を今、創価学会の皆さんと手を携えて、築きたいと思っています。

 

 

やまもと・ろりお 1969年、千葉県生まれ。医師、医学博士。東京医科歯科大学大学院ウイルス制御学講座助教、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第5室室長、順天堂大学大学院感染制御科学講座准教授などを経て現職(基礎医学系・生体防御学)

 

 

【危機の時代を生きる】聖教新聞2020.5.20






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Last updated  May 20, 2020 04:55:45 PM
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