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カテゴリ:書評
心をつかんで離さない物語 作家 村上 政彦 ディネセン「夢みる人びと」 本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、イサク・ディネセンの『夢みる人びと』です。 前回書いたとり、イサク・ディネセンは男性名ですが、実はデンマークの女性作家カレン・ブリクセンで、長くケニアで農園を営んでいました。当時、愛する人が物語を聞くことが好きで、よく〝話をしてくれ〟とせがまれたそうです。 すると、ブリクセンは『千夜一夜物語』のシェヘラザードのように、即興で物語を語って聞かせる。そうしたやりとりが『七つのゴシック物語』に結晶したようです。 表題に「物語」と銘打っているように、『七つのゴシック物語』は物語の楽しみに満ちていて、次はどうなるかと読者をワクワクさせながら、作品世界へ引き込みます。読者は、いつの間にか渦に巻き込まれた木の葉のように翻弄され、結末で「あっ!」と言う。タ 大抵の小説家の最初の作品には、その小説家の中に、潜んでいるものが全て詰まっていますが、ブリクセンも例に漏れず、どの作品も濃厚な「物語」を味合わせてくれます。特に『夢みる人びと』は、練りに練った物語で、冒頭から読者をグリップして離さず、物語が進むにつれて、さらにその力は増していきます。 時代は19世紀半ば、舞台は満月の夜のアラビア帆船です。甲板にかけられた小さなランタンの明かりを3人の男が囲んでいる。まず、サイイド・ベン・アハメドイド・ベン・アハメド。敵の罠にはまって2年間の獄中生活を強いられたが、脱走して復讐を果たすために母国に向かっている。次に、物語の名手ミラ・ジャマ。何らかの事情で耳と鼻をそぎ落とされているが、彼の語った物語は、百の部族に愛されているという。そして、赤毛の英国人リンカン・フォーズナー。裕福な資産家のもとに生まれたが、今やサイイドの行く末を見定めたいと放浪する身の上。 リンカンはミラに物語を求めるが、話の種が尽きたと言われ、問わず語りに自身の来し方を語り始める。リンカンはローマでオララという娼婦を愛するようになり、行方が分からない彼女を今も捜しているという。そして物語は、その途次に出会ったパイロットという渾名の若者の身の上に映る。彼は革命家のマダム・ローラと名乗る女を愛するようになり、やはり姿を消した彼女を捜している。 そこから物語を引き取るのは、パイロットの友人ギルデスタン男爵。彼はマダム・ロサルパという聖女を愛したが、彼女は体に悪魔の印を持っている多。「左の耳から鎖骨にかけて、長い傷跡が走っていた。小さな白い蛇のように――」。するとパイロットは〝それはマダム・ローラのことだ!〟と。 こうして物語は予想もしなかった展開を迎えます。どうなったでしょう? 先が聞きたくなりませんか。 [参考文献] 『夢みる人びと 七つのゴシック物語2』 横山貞子訳 白水Uブックス
【ぶら~り文学の旅 海外編⓳】聖教新聞2023.2.8 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 4, 2024 06:42:34 AM
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