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May 16, 2024
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カテゴリ:文化

和室の魅力

奈良女子大学教授  藤田 盟児

 

日本人にとって過ごしやすい空間

 

均質的で外とつながる

かつて当たり前のように存在していたけれども、今や絶滅危惧種と化した「和室」。日本人にとって身近な存在だけに、「何が和室なのか」など、よく分かっていないことが多い。そこで、ふるまいに注目し、和室について考えた『和室礼賛』(晶文社刊、日本建築和室の世界遺産的価値研究会著)の編さんに携わった。

「和室って畳敷きの部屋でしょ」と、よく言われる。畳があるのは和室の一つの条件ではあるが、畳があればいいというものではない。ヨーロッパの宮殿に畳が敷かれている様子を想像してほしい。これを和室と呼べるだろうか。

確かに、畳を敷くことで、和室的な使い方ができるようになる。しかし、同じような使い方ができれば、畳でなくてもいいのだ。

和室であることの条件がある。まず壁。少なくとも1面は外に抜けていることが大切。それも小さな窓ではなく、掃き出し窓のように、床面から上まで解放できること。もう一つは、天井が水平であること。床面と天井が水平で、畳のようにどこでも寝られるような部屋だと、どこも均質な空間になる。

ヨーロッパや中国では、部屋の中に中心的な部分があるが、和室では空間に区別があってはいけないのだ。だから、和室の基本と言われると、部屋の中が均質で、外とつながっていること、もしくは、外の自然が感じられるように作られた空間ということになる。畳にしても、これを実現するために都合がよい座具だったということなのだ。

 

 

冬寒いが夏は気持ちいい

「和室礼賛」では、「座る」「会う」「核」「転がる」「食べる」「寝る」など、〝ふるまい〟に焦点を当てて、和室について考えている。

日本人が室内で行う全てのことができるのが和室。読んでもらえれば、こういうこともできた、ああいうこともできた、と納得してもらえるかと思う。

実は、こういう空間が日本人には必要なのだ。

和室の研究者として自ら体験しなくてはなくてはとの思いから、10年前から大正時代の古民家に住んでいる。それでも、冬は寒いので、高気密高断熱の建物を増築し、イスとテーブルで過ごせるようにした。すると子どもたちは、夏には和室で、冬になると暖かい部屋で過ごすようになった。

昔の家は「夏をもって旨とすべし」といわれるように、暑さ対策に特徴がある。住んでいても、この家は大きな木のようだと感じる。だから、夏でも運動しない限りは、薄着でうちわ程度があれば十分。クーラーどころか扇風機さえ使わないで済んでいる。

冬の寒ささえしのげたら、和室というのは最高に気持ちがいいのだ。機構さえ許せば、誰もが和室で過ごしたがる。

長年建築家として見てきたが、ソファーのある生活に憧れて、椅子とテーブルを中心とした部屋に住んだとしても、そんな生活は5年と持たない。そのうち、床にこたつをおいてゴロゴロし出す。畳敷きではないのに、床での生活に変わっていく。でも、これは日本人だからしょうがないことだと思う。

 

 

根本の文化は変わらない

日本人が暮らしやすい空間かどうか。これは感性の問題だから非常に言語化しにくい。実際、和室より椅子の生活のほうが楽だと思う人も多いだろう。しかし、これは生理的な快楽にすぎない。そうではなく、感性的な満足が得られるかどうかが重要なのだ。

砂漠で暮らす人の家は、和室とは異なる。ヨーロッパにしても和室ではない。どうして家の形が違うのか。根本にあるのは、そこに暮らす人々が、その場所の自然環境に対してどう思っているかによる。

日本人は、自分たちは自然の一部であり、自然に生かされていると感じている。だから、窓を開放して、自然とつながれる場所がないと落ち着かない。砂漠で暮らす人は、自然は試練だと感じる。その感覚が、自然に対抗するための壁に囲まれた頑強な家を求めるのだ。

こういった感覚は家の形だけでなく、言語や人との関係などにも影響する。日本という環境で暮らし、日本語を話している限り、根っこの部分、文化は変わらないのだ。だからこそ、休みになると山に出かけていく人は絶えないし、家庭菜園をやろうという人も絶えない。桜の季節には浮かれてしまうのも、昔から変わらない。

もちろん、日本の文化から生まれる創作物は、時代や技術とともに変化していくもの。畳や襖などの建具は変化するかもしれない。しかし、和室での暮らし方は変わらないように思う。何といっても、和室での生活は気持ちがいいのだから。                                      =談

 

ふじた・めいじ 1960年生まれ。奈良女子大学教授、工学部長。広島国際大学教授などを経て現職。専門は中世の住宅史。共著に『建築の歴史・様式・社会』『日本建築様式史』などがある。

 

 

 

【文化Culture】聖教新聞2023.223






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Last updated  May 16, 2024 05:37:00 AM
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