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June 23, 2024
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カテゴリ:政治

放送法と安倍政権 政治の介入 徹底的に検証を

中島岳志

立憲民主党の小西洋之参院議員が、二〇一四年から一五年にかけて作成された放送法の政治的公平性を巡る内部文書を公開した。総務省はこれを「行政文書」と認め、同じ内容のものを公開した。

 ここでは安倍政権下で総理補佐官を務めた礒崎陽輔が総務省に強い圧力をかけ、放送法の解釈を強引に変更させるプロセスが記されている。礒崎補佐官は「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要があるだろう」と述べ、時に恫喝(どうかつ)するような言葉で解釈変更を迫った。政府は長らくの間、報道番組が公平かどうかを見る際、放送局の番組全体を対象として判断するとしてきたが、礒崎は一つの番組だけを見て判断する可能性を追求し、高市早苗総務大臣(当時)の解釈変更答弁につなげた。

 この「行政文書」を読んでいて驚いたのは、総理秘書官を務めていた山田真貴子の発言である。彼女は総務省の役人で、当時の安倍政権で内閣官房に出向し、広報、女性政策、少子化対策などを担当していた。山田は、礒崎の言動に批判的で、「よかれと思って安保法制の議論をする前に民放にジャブを入れる趣旨なんだろうが」「視野の狭い話」と切って捨てている。そして、政府がこのようなことを進めれば「どこのメディアも萎縮するだろう。言論弾圧ではないか」と発言している。

 これは正鵠(せいこく)を射ている。重要なのは、礒崎が安倍首相の意向を忖度(そんたく)し、「よかれと思って」暴走している点を見抜いていることにある。安倍政権の重要な特徴は、首相の直接的な指示以上に、首相の周囲が勝手に忖度をして、強権的な政治が展開していった点である。放送法のケースも、これに該当する。山田はこの構造を問題視し、結果的にメディアの萎縮が起きることに懸念を示しているのだ。

 問題は、総理秘書官を務めていた山田が、高市総務大臣の解釈変更答弁に至る展開を止めることができなかったことにある。政権の忖度構造を的確に把握し、批判的な見解を持った内部の人間がいても、事態は好転しなかった。ここに安倍政権の構造的問題があったと言えよう。

 ジャーナリストの青木理は、『AERA』のインタビュー(「総務省文書で名指しされた『サンモニ』出演の青木理氏 政権からの敵視は『番組にとって名誉』なこと」3月9日、AERA dot.)の中で、「政治的公平性」という言葉に着目する。青木は、この言葉が政権側からメディアに向けて発せられた時には注意が必要だという。それは「『政権批判をやめろ』という意味に等しい」からである。批判と同じ分量で政権の側の考えも伝えろという主張がまかり通ってしまうと、「物事はすべて相対化され、時の政権や各種権力を監視するメディアとジャーナリズムの使命は死」んでしまう。

 テレビ番組の「政治的公平性」について、アメリカは「フェアネス・ドクトリン」(公平原則)と呼ばれる原則があったが、レーガン政権時に「言論の自由」を定めた憲法に基づいて廃止した。これについてアメリカ在住の映画評論家・町山智浩は、東京新聞の記事(「こちら特報部−インターネット放送の『番組』が隆盛の今、放送法4条の『政治的公平』を考える」3月8日、東京新聞TOKYO Web)の中で、アメリカのテレビメディアが「右と左にどんどん両極化」している現実を指摘している。

 放送局は固定的な視聴者を獲得しようとして、政治的主張を極端な方向にシフトさせる。保守層をターゲットとしたテレビ局が出現すると、極端にリベラルな対抗局も誕生する。その連鎖の結果、国民の間に大きな溝が生じ、過激な社会の分断が米国社会を支配していると指摘する。

 日本のテレビ局は、政権を批判的にチェックする役割を担いつつ、多様な意見を尊重する使命を有している。極端なスタンスをとることなく、権力に対しても一定の距離を保ちながら批評するには、高度なバランス感覚を必要とする。今回明らかになった「行政文書」を精査し、安倍政権下で起きた政治のメディア介入を徹底的に検証することこそ、放送局のこれからを考えるうえで必要不可欠である。 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

 

 

【論題時評】東京新聞TOKYO Web 2023.4.1






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Last updated  June 23, 2024 06:25:58 AM
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