浅きを去って深きに就く

2024/07/07(日)16:00

ハチを活かす暮らし方

文化(666)

ハチを活かす暮らし方安藤竜二(ハチ蜜の森キャンドル代表) 刺すのは巣の周囲だけ小学校の教室に2匹のアシナガバチが入り込み飛び回ったため、子どもたちを体育館に避難させ、殺虫剤とハエたたきで1時間かけて駆除したという話を聞きました。多くの人はハチというと「針で刺す怖い虫」という印象を持っているのかもしれません。そのため、こんなことが起きてしまうのでしょう。しかし、このアシナガバチたちは、子どもたちを刺そうとして入って来たわけではありません。たまたま、天気の悪い日の外よりも明るい教室に入ってしまっただけ。だから、窓を開けて照明を消してやれば、外に出て行ったはずなのです。人間を襲う可能性のあるハチは、ミツバチ、スズメバチ、アシナガバチの3種。でも、それは巣の周囲だけです。例えば、花畑で蜜を集めているミツバチたちは、人間が手を出さない限りは、刺しません。しかし、巣の近くで早い動きをすると、3~5㍍離れていても刺しに来ます。人を襲うのは、自分や家族(巣)が襲われた場合。したがって、手で払おうとして触ってしまったり、間違って巣にぶつかってしまうと、ハチたちも攻撃されたものと認識して、防御しようと刺しに来るのです。しかも、アシナガバチは一番〝温厚〟で、ミツバチよりも巣に近づくことができます。山形では刺す期間は1カ月程度。巣を作り始めたばかりの母バチだけであれば、基本的に戦わずに逃げていきます。自分が死んだら子孫を残すことができないため、無用な争いは避けたいのです。  アシナガバチなどを畑に移設し害虫駆除  2000匹を一夏で狩る私の攻防では、蜜ろうを使ったキャンドルづくりのほか、立たちと共生するための「ハチ暮らし」を展開しています。最近、話題になっているのがアシナガバチ畑移住プロジェクトです。アシナガバチは、畑の野菜を食い荒らすイモムシを狩って、幼虫の餌にします。その性質を利用して、アシナガバチを殺さずに、有機農法や自然栽培などを行っている畑に移住させ、害虫防除してもらおうというわけです。ある研究では、一つの群が一夏で2000匹取ったという報告もあるほどです。家の周りでアシナガバチの母バチの営巣を見つけたらどうするか。もし畑に移住させるのであれば、巣穴が15個以上になるまで放っておいてください。巣が小さい内は、脆くて壊れやすく、母バチも巣に執着がないので、巣を移設した時に別の場所に行ってしまいます。移設に最適なのは、卵が幼虫になって肉を食べさせるようになったタイミングです。母バチが餌をとって帰ってきたときに、ビニール袋で捉えて分離しておきます。その上で、巣を移設箱に移すのです。母バチを巣に戻す際には、ただビニールから出すのではなく、必ず巣の直前まで誘導して気付かせてあげること。そうでないと、巣のあった元の場所に戻ろうと興奮して暴れてしまいます。なお、記憶が残っていて元の場所に戻ってしまうので、異動は300㍍以上離れた場所にしてください。  あたり前に生きる場にまたドロバチも多くのイモムシを取ってくれます。ある論文では、春先に1匹のオオフタオビドロバチを見つけたら、10月まで結果的に3300匹のイモムシを狩るそうです。9月まではアシナガバチ、それ以降はドロバチが活躍してくれるわけです。ドロバチは群にはなりませんが、年間で2世代が子育てをするため、多くのイモムシを取ってくれるのです。さらにスズメバチは最強で、アシナガバチが取らない大型の毛虫や、コガネムシなどの甲虫もバリバリとかみ砕いてしまいます。現在、スズメバチの中でも小型のコガタススメバチを使って実験していますが、巣の周囲5㍍の範囲を立ち入り禁止にしておけば、農作業をしている人がハチに襲われることはないようです。ここで強調したいのは、ハチは益虫なんだということ。それなのに、むやみに人を刺す危険な生物だと誤解されているのです。近年、農業の影響でミツバチをはじめ、多くのハチたちが生息数を減らしています。日本は2050年までに有機農法の割合を25%まで引き上げるとしていますが、実際には取り組みは進んでいません。でも、50年後ぐらいに自然農法や有機農業が当たり前になり、ハチと共存できて、「かつてはアシナガバチを畑に移住させていたんだよね」と笑って話せるようになればいいも思います。アシナガバチも当たり前のように生きて生活している。そんな生命豊かな場所にしたいと思うのです。       =談 あんどう・りゅうじ 1964年、山形県生まれ。ハチ蜜の森キャンドル代表。父のもとで養蜂を学んだのち、88年に日本で初めて蜜ろうキャンドル製造に着手。アシナガバチ畑移住プロジェクト主宰。国土緑化推進機構認定「森の名手・名人」。山形県養蜂協会役員。著書に『知って楽しむ ハチ暮らし入門』『手作りを楽しむ 蜜ろう入門』(いずれも農文協)がある。   【文化Culture】聖教新聞2023.5.4

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