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January 14, 2021
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カテゴリ:歴史人物

暴君になった孫権 三国時代 呉の初代皇帝

早稲田大学教授  渡邊 義治

 

三世紀の中国、魏・蜀・呉の三国時代で、呉には女性ファンが多い。呉は、主役が若いのである。赤壁の戦いで曹操を破った周瑜(しゅうゆ)、それを助けた()(しゅく)、二人の跡を継ぎ関羽を破った(りょ)(もう)、関羽の仇討に来た劉備を返り討ちにした陸遜(りくそん)、それぞれ三十代後半から四十代前半で大活躍をしている。主役が若いうちに代わるのは、陸遜を除き、みな早世したためである。そうした中、君主の孫権だけが、七十歳を超える長寿を全うする。

孫権は、十九歳で兄の後を()いだ。頬の張った顎に大きな口。紫の(ひげ)という異貌の持ち主だが、父孫堅や兄孫策のような圧倒的な武略を持つわけではない。孫権は、(ちょう)(しょう)・周瑜を中心に名士を積極的に登用し、その結果、陸遜が出した。陸遜は、孫策に大叔父の(りく)(こう)一族が殺された際の生き残りである。それが出仕して孫策の娘を(めと)ったことは、江東(こうとう)の豪族の中心として孫氏と対立してきた陸氏と孫氏との和解の象徴であった。

赤壁の戦いの前、曹操が降服を要求すると、張昭らの北来の名士は降服を主張した。それでも、周瑜の主戦論を魯粛の戦略が支え、赤壁の戦いで曹操に勝利した。しかし、周瑜は、病のため後事を魯粛に委ね病没する。三十六歳であった。続いて魯粛も(しゅっ)すると、呂蒙は、関羽を打倒して、荊州を奪回するが、呂蒙も病死する。関羽の殺害に劉備が侵攻すると、孫権は陸遜に夷陵の戦いを任せて打倒し、曹魏への臣従を止めて自立した。その際、孫権は、臣下達が二度も丞相に推した張昭を任命せず、君主権力の強さを示した。

 

若い頃は謙虚で、人材が集まるも、次々と先立たれ

 

もっとも孫権は、常に朝臣と対峙したわけではない。事に後継者となる皇太子孫登には、陸遜を補佐役として、北来・江東の名士と軍部から「太子四友」を選び、融和に努めた。ところが、孫登も早く卒し、二宮(にきゅう)事件と呼ばれる後継者争いが起こる。孫権は、王夫人の子孫和(そんか)を皇太子としながら、孫和の弟の魯王孫覇を寵愛したのである。丞相の陸遜は、儒教づき皇太子正統とし、江東名士の多くもこれに賛同した。しかし、魯王派は、孫権の寵愛を背景に強力であった。結局、孫権は、孫和を廃して孫覇も殺害、晩年の子の孫亮を皇太子とした。そして、魯王派の責任を問い、陸遜を流罪とした。憤りで体調を崩した陸遜が死去すると、江東名士は呉に失望した。こののち孫権は、スパイを多用する恐怖政治を行い、暴君となっていくのである。

 

晩年になるほど疑り深く

 

『三国志』を著した陳寿は、若い頃の孫権は、身を低くして才能ある者に仕事を任せ、非凡であった。しかし、生来の疑り深さから容赦なく殺戮を行い、晩年になるほど激しかったと批判する。陳寿の評価どおりであろう。ただ、信頼する周瑜たちを早くに失い、赤壁の際に降服を唱えた張昭と、兄が対立していた陸氏に朝臣の支持が集まるなか、頼りの皇太子に早世された晩年の孫権を一方的に責めることはできるのであろうか。

 

わたなべ・よしひろ 1962年、東京都生まれ。著書に『入門 こんなに面白かった三国志』(大和書房)、『はじめての三国志』(筑摩書房)など。

 

 

【文化】公明新聞2020.4.8






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Last updated  January 14, 2021 05:27:07 AM
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